野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エイブルアート・オンステージの5年が終わる

本日、コラボシアター・フェスティバルの最終公演に行き、明治安田生命エイブルアート・ジャパンが共同で5年間進めてきたプロジェクト「エイブルアート・オンステージ」の5年間の全プログラムが終了しました。

公演後の20分のトークに参加して、ぼくの実行委員としての5年間も終了です。

このトークで、少しだけ、ぼくが話した話は、要するにこういうことです。

自由と破壊の関係。不自由に満足すれば、現状を維持すればいい。不自由で苦しい人は、現状を変えなければ生きていけない。そうした行為を破壊のための破壊ではなくて、再構築のための破壊として現れる。でも、それは、社会的弱者の叫びだったりもする。

5年間このプロジェクトに関わってくる中で、ぼくが尽力したことの一つに、衝突を顕在化するということ、があったような気がします。考え方や立場の違う人が、一緒に何かをしようとする時、そのずれを面白がって、楽しめて、創造的に物事が進めば、それはそれは、とても良いことだと思います。

でも、考え方が大きく相違している上に、お互いの力関係のバランスが悪かったり、誰かが誰かを無自覚に支配しようとしたりしている時、そういうずれは、非常に大きなストレスとして立ち現れます。でも、ずれがあることを、自覚していればいいのですが、あたかもお互いが同じ哲学である、という間違った前提で進めると、それはそれは苦しいのです。

そういう衝突や苦しい部分は、隠蔽されて、一番表に出てこない。でも、エイブルアート・オンステージの5年間で、もちろん、素晴らしいステージや表現が実現したことは確かですが、そうしたプラスの面は表に出てきます。けれど、それよりも気になるのは、この5年間、35の団体が、誰とも語ることができなかった衝突や失敗の歴史だったり、そのことについて、悩んだり苦しんだりしたこと、そうしたことこそ、財産だと思うのです。ただし、そうした財産こそが、最も、表に出て来ない。

こうした表に出て来ない情報をキャッチしようとすること、そのことをこそアウトリーチと呼びたいと、ぼくは思います。放っておいても伝わってくる情報と、放っておいたら伝わって来ない情報があります。その伝わって来ない情報に、実は、すごい大切なことがある。こういう意味でのアウトリーチを、誰ができるのか?以前も書いたけど、聴く芸術家の役割が重要になってくる、と思います。

生きるための試行 エイブル・アートの実験

生きるための試行 エイブル・アートの実験

この本が出ました。この本の前半は一般論だったり入門的な内容だと思うのですが、この本の後半に、黄色いページで、35団体の実践の歴史が、少ない字数の中になんとか少しだけ書き込まれています。この黄色いページを熟読してみると、色んなことが浮かび上がってきます。そうしたことを考える場を、作らないといけないな、と終演後に、砂連尾理さんと熱く語りながら思いました。