野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エイブルアート・オンステージ第5期報告会

エイブルアート・オンステージの第5期の報告会に行ってきた。
明治安田生命エイブル・アート・ジャパンが共同で2004年から5年間続けてきたプロジェクトの最終年(5年目)が終わるわけですが、5年前には想像もできなかったような変化もあるし、まだまだ始まったばかりという気もしました。

作品のクオリティとか強度という話も何度か出ました。クオリティや強度は、もちろん大切だと思うのですが、みんながそういう話をし始めると、ぼくはひねくれ者なので、ナイーブさとか、ちょっとずらした着眼点とか、そういうことをもっと話題にあげてもいいのではないか、と思えてきたりします。もっと言えば、「私たちは、徹底して質の低い作品づくりにこだわります」とか、「私たちは強度の弱い作品で、観客が思いっきりくみとらないと、全然面白くない舞台を作ります」とか、そんな切り口もあるのかもしれない。

コミュニケーションは難しい。対話は難しい。事務局(+実行委員)と各団体の間のやりとりも、この5年間やって難しいと思った。このプロジェクトは、活動支援プロジェクトと呼ばれていて、各団体のことは、活動支援先と呼ばれていた。つまり、事務局というのは、各団体を支援(=サポート)するわけで、指令しているわけでもないし、命令しているわけでもない。でも、お金を払う側ともらう側という立場があると、支援が、命令されているように感じることもある。団体が事務局の意向を十分な対話の上で納得して了承するのではなく、要求をされたけど納得できないまま応じ、自分を見失うこともあるらしい。事務局(+実行委員)は、各団体の活動をサポートするつもりで意見を伝えているのに、それは命じられていると受け取られることもある。

これと似たことは、演出家と俳優の間でも起こる。演出家が俳優の演技を引き出そうと援助するつもりで、役者に何かを伝える。しかし、役者は演出家の言葉に萎縮してしまう。一生懸命伝えようとすればするほど、相手を傷つけたり、そして相手を傷つけたことに自分も傷ついたりする。

信頼関係を築かない上で、ガチンコでぶつかり合っても、傷を深く作るだけかもしれない。信頼関係を作っていけば、ガチンコでぶつかり合っても大丈夫な創作の場が保証されるのだけど、その信頼関係を築くのが、時には時間のかかる作業だったりもする。その時間のかかる作業を「ワークショップ」という手法を通じてやって欲しい、という意味で、エイブルアート・オンステージでは、いきなり作品づくりをするのではなく、必ず「ワークショップ」をして、その後、作品づくりをする、という枠組みが決められている。そこに、十分な時間を割かないと、傷つけ合うことになってしまいかねないから。各団体の代表者が東京に集まって行った代表者会議も、そうした信頼関係を築くためにやっていたことだと思うのですが、なかなか、それがうまく機能させるのは、難しかったなー、と反省もする。ぼく自身、第5期の代表者会議には、一度も参加できなかったし、、、、。

でも、そうやって傷つくことがありながらも、それでも、表現してきてるんだから、その表現へのエネルギーはすごいし、大切にしたらいいと思うのです。そして、無理のない範囲で続けていっったらいい、って思う。一歩一歩、信頼を築いていけば、未来は自然についてくるはずだ、と思うのです。そう、活動支援先といって、支援していたのはお金と思うかもしれないけど、ぼくは、お金は出せないけど、気持ちは応援しているし、これからも応援しているから。