野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

岡山アートリンク・プロジェクトを見て

岡山までエイブルアート・オンステージに参加しているアートリンク・オンステージを見に来ました。アートリンク・プロジェクトとは、ちらしによれば、
「想像力の芽をもち独自の表現を行う障害のある人と、新たな表現の世界に挑戦するアーティストが1対1のペアになり、半年間、それぞれの拠点を中心に、表現というフィールドで自由に創作活動するコラボレーション」
とのことです。過去2年間は、現代美術のプロジェクトとして1対1で主として美術作品を作っていましたが、今年は、新プロジェクトとして、舞台芸術のプロジェクトとして半年かけて1対1でパフォーマンスを作る「アートリンク・オンステージ」を立ち上げたそうです。

さてさて、アートリンクという言葉が指し示すように、いろいろ「つないでいく」「つながっていく」プロジェクトをやっているのだと思います。ペアを作ること自体が、二人の出会いを創出して、接点のないところに接点を作っていくわけです。そうしたことが、アートや社会を変えていくのだ、という理念があるのだと思います。

アートリンクの展覧会もやっていたので、展示を見ました(第1展示室)。それから、公演を見ました(第3展示室で13時〜15時)。その後、小島剛さん、森本アリさん主導によるビッグビッグバンドコンサートがありました(第3展示室で16時〜17時半)。それで、今日は、アーツマネジメントのことを色々考えさせられました。

アーツマネジメントでは、やはりこの「つなぐ」ことの議論がされてきたと思うのです。ぼくがショックだったのは、「アートリンク・オンステージ」の観客のほとんどは、「ビッグビッグバンドコンサート」を見ずに帰ってしまったことです。

「アートリンク」を見に来たのに、「ビッグバンド」に出会ったり、「ビッグバンド」を見に来たのに、「アートリンク」を見てしまう仕組みを作ると、それこそが、アートリンクなんだと思うのです。例えば、パフォーマンスの全てをステージでやるのではなく、例えば、第1部として展覧会場でビッグビッグバンドのミニライブを企画する。そうすると、ライブが目当てな人も展覧会に興味を持つきっかけができるかもしれないし、展覧会目当てな人もライブに出会えるかもしれない。そういうリンクを、もっともっと意識的に積極的にしていくことが必要なのだと思います。

例えば、ぼくが山口で「あいのてさんコンサート」をやった時などに、「あいのて」という番組でやった曲も色々演奏しましたが、それとは別に「あいのて」という番組では絶対に聴けないような音楽も敢えて入れました。また、コンテンポラリーダンス白井剛くんは「ワニバレエ」を踊りましたが、彼のダンスを入り口にして、コンテンポラリーダンスに入っていく人もいるかもしれません。そういう仕掛けを作ることで、新たなリンクをつくっていく。

それと、主催者が観客とどうやってリンクしていくのか?も、課題です。アンケートが唯一の方法なのか?かと言って、無理矢理な観客参加は、強制されているみたいで苦しいし。どんな形があり得るのだろう?観客同士がリンクできるようなステージって、あり得るのだろうか? この辺は、いろいろ課題です。

展覧会の展示の中には、150センチ以上の身長がある人でないと見れない作品があったり、展示されている目線がその辺を意識していると思いました。5歳児の身長や車椅子で見る場合に、見れない作品がいっぱいありました。こうしたことは、意識的にそういう観客を排除しているのではなく、無自覚にそうなっていて、実はそれは多くの美術館の慣習に馴染んだアーティストが、踏襲しちゃった結果だったりすると思うのです。そういうことをエイブルアート・オンステージでも、考えていく必要があると思うのです。作品の表現は鑑賞者を選択します。作品の表現の個性を重視すれば、それは当然です。しかし、ある特定の鑑賞者を無自覚に排除することをどうやって避けるのか?鑑賞者として標準的な(普通の)人というのを想定してしまった場合、でも、そんな標準人間なんて幻想で、世界には多様な人々が多様に生きているのです。で、どうやったらいいのかなぁ、ということを、エイブルアート・オンステージを通して、試行錯誤しているわけです。

あとは、このエイブルアート・オンステージをやっていて思うことですが、観客が批評できる空気を作るということが、大きな課題です。「これは面白い」、「あれは酷い」、「つまんない」、「金返せ」、「もう少し見せ方を工夫したら」などと言った率直な感想・コメントが、とにかく言いにくい空気を感じることです。観客の善意の視線。障害者は弱者であり、慈善の精神みたいな感じで、とにかく悪口を言えないな、という空気があるのです。これは人前で舞台に立つ人に失礼だと思います。これを脱出しないといけないなぁ、と思います。

新潟に「こわれものの祭典」を見に行った後、楽屋で月乃さんに会ったら、第1声「いいことはともかく、良くなかった点を聞かせてください」とシビアに感想を求めてきました。そういうことが必要なんでしょうし、そう聞かないと、そういう感想は聞き出せないのでしょう。

今回は特に、1対1で個性をしっかり出していこうというプロジェクトです。観客の好き嫌いもはっきり出るし、賛否両論になりやすい形態です。まずは、賛否両論が出るくらい、絶賛する人から拒絶する人まで出てくるくらい、それぞれのプロジェクトの方向性を押し進めていって欲しいと、ぼくは思いました。エイブルアート・オンステージに現在まだまだ不足しているのが、アートマネジメント(つなぐ仕事)と、アートクリティック(批評する、本音で感想を言い合う)だと、痛感しています。ここを本気でやっていかないといけません。

と、まあ、色々書きましたが、岡山アートリンク・プロジェクトをはじめとした様々なプロジェクトは、前例のない獣道を突き進んで実践されてきているわけで、本当にそのことには敬意を表します。やっているだけで、本当に素晴らしい。出会うことのない人が出会う状況を作っただけですごいことですし、今日のようなイベントが存在するだけで、すごいことです。

それは大前提の上で、でも、そのことが、色んな人ともっとリンクしていくために、乗り越えて行くべき障壁はいっぱいあるのだなぁ、と感じます。そして、もっとつながっていけるための仕組みづくりを、切り開いていきたいわけです。それが、(少なくともぼくが)エイブルアート・オンステージで取り組んでいる大きなテーマです。

人と人とのつながりがアートである、と考えて、人と人のリンクを作っていくのもアートプロジェクトです。
人と人がつながれるようなアート観を拡げていくことも、アートプロジェクトです。

う〜む、いろいろ考えます。

皆さん、おつかれさまでした。
もっと、ほめたいので、もっと過激に面白いことをやってください。今日のことを、もっともっと突き詰めたその先の何かを、またいつか見せて欲しいし、期待しているので、いつかほめさせてください。