野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

2015年に向けての豊富(1)

2000年の6月のこと。東京に暮らし始めて5年が経ち、31歳でした。
経済的にも極貧状態を出て、面白い仕事にも恵まれ、「路上日記」という本も出版され、老人ホームでのプロジェクトなども立ち上げ、創作も活発にしていて、いい感じでした。

そんな時に、突然、今後5年間の豊富を立てようと、思い立ったわけです。で、その時に掲げた豊富が、非常に頭の悪そうな豊富なのですが、

1 老人ホームの集大成
2 ダンスオペラ
3 邦楽器の最高傑作
4 しょうぎ作曲の普及と発展

の4つを掲げました。このまま東京にいると、仕事もいっぱいあるし充実している感もあるけど、一度、そこから離れて、自分なりに目標を立てて、じっくり取り組んでみよう、と思ったのでした。それで考えた時に出てきたのが、4つでした。

そう決意したら、その翌日くらいに、京都の大学の専任講師をしないか、という電話がやってきて、じゃあ、と思って、東京から、再び拠点を京都に移したわけです。

というわけで、2005年までに、この4つをやろうと思っていたようです。この4つは、どういうことかと言うと、翌年に発行された「Inter Communication no.35」に野村が書いた記事を見ると、

1 高齢者施設で行っている共同作曲の集大成
2 種々雑多なメンバーで制作する新しい劇場作品「ダンスオペラ」の創作
3 まったく技術のない邦楽のアウトサイダーたちと邦楽器を使用してつくる新しい音楽の創作
4 「しょうぎ作曲」で次々にいろんな人と行う共同作曲
5 ガムラン・シアターの作曲

とあります。

で、2005年までに、全然達成できなかったんですね。じっくり5年やろうと思っていたことが、10年かかった、というのが正直なところです。実は、2005年になったら、2010年までの目標を立てよう、って思っていたんです。

1 「老人ホーム」

ですが、これは、1999年にやった老人ホームでのワークショップを、何らかの形で作品化したい、ということを考えたのでした。それが、まさか10年かかるとは、思いませんでした。先日の「老人ホーム・REMIX」をやって、ようやく宿題ができた感じがあります。

2 「ダンスオペラ」

は、当時、路上やワークショップなど、劇場の外を中心に活動していて、劇場って閉鎖的でつまんないな、と思っていました。何か保守的なことしかやってないな、という感覚でした。で、ふと思ったのです。路上的な感覚を総動員して、劇場で、全然別な自由な面白い作品が発表できるかも、と。それで、それを仮に「ダンスオペラ」と呼んでみて、それは、即興の要素もあったり、がちっと作られていたり、ダンスであり、演劇であり、音楽であり、、、、、そんなことを夢想したのでした。これは、その当時、ぼくが劇場から遠く離れたところで活動していたため、なかなか実現しそうにもなかったのですが、エイブルアート・オンステージに関わったり、マルガサリとの「桃太郎」(2001−2005)、演劇交響曲「十年音泉」(2007)、「門限ズ」(2009−)などで、模索してきました。ようやくスタートラインといった感じ。

3 「邦楽器」

は、1998年に「ごんべえさん」という作品を発表したり、1999年に高橋悠治さん、高田和子さんが始められた邦楽器のバンド「糸」のために作品を書いたりしたこともあって、さらには、竹澤悦子さんと老人ホームで「似顔曲」のプロジェクトをやったりしたことの延長です。当時、佐久間新さんと話している時に、「『踊れ!ベートーヴェン』は、20世紀のガムラン現代曲の最高傑作だけど、、、、、」というフレーズが出て、じゃあ、「ガムランの最高傑作」というフレーズを、「邦楽器の最高傑作」とパラフレーズしてみようと思い立ったのです。最高傑作とかは別にして、先日の「野村誠×北斎」をやって、この宿題に自分なりに答えて、スタート地点に立った、と思えました。北斎四重奏は、続けていきたいと思います。

4 「しょうぎ作曲

これも、1999年に考案した「しょうぎ作曲」。当時は、数名の友人たちとしか試したことがない「しょうぎ作曲」を、多くの人とやってみたい、と思ったわけです。これについては、2005年までやって、それなりにやったかな、という気持ちがあり、2005年以降は、積極的にはやらなくなりました。久しぶりに思い切って「しょうぎ作曲」をやってみようかな、という気持ちもあります。



というわけで、2000年の豊富がようやく形になって見えてきたので、そろそろ次なる豊富を掲げてみようか、と思い始めたりしています。そのために、一度、この10年間を思い返しつつ、ひとまず、2015年に向けて、どんな豊富を立てるか、考えてみようと思います。(つづく)