野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

しょうぎ作曲&ライブ

チェンマイの濃い3日間の翌日。もう一日、濃い日が待っています。今日が終われば、タイの残りの10日間は、少し息が抜ける。本日は、シラパコーン大学にて、「しょうぎ作曲」のワークショップ。20人強の人数で、共同作曲。非常に濃密で、良い作品ができた。曲が完成した後、YCAM山口情報芸術センター)での「しょうぎ交響曲の誕生」のCDより、「どこ行くの?」(しょうぎ作曲の原曲)と、「どこ行くの?」(しょうぎ交響曲第2番)を紹介。作曲家のJDが、しょうぎ交響曲のアレンジャー(片岡祐介)のことを、ほめていた。「即興のことを良く分かっている人だ。原曲の持つリズムのずれている感じとかも残しつつ、適度にハーモニーをつけているけど、やり過ぎていない。誰がアレンジしたの?」と。

夜、JDのスペース「ZOO 」にてライブ。さすがフランス人という感性で、素敵な空間を作っている。ライブが始まる前に、アナンにインタビュー。これまで聞きたかったけど、聞く時間がなく、ようやくインタビューできた。予想外の答えがいっぱい返ってきて、びっくりした。例えば、タイの伝統楽器のグループ「コーファイ」は、結成当時は高校生で、しかも、タイの伝統音楽の演奏家ばかりを集めて結成したと思っていたら、そうではなくって、ロックやってる人、西洋音楽やっている人、ポップスやっている人、伝統音楽やっている人などで、集めて結成したらしい。コーファイにアナンが作る曲は、楽譜代わりにパソコン(ロジック)を使って曲の概要を説明したりするらしい。コーファイは、海外の人々からはタイの伝統音楽のグループと誤解されているが、コンテンポラリーのグループだ。

その後、ライブ。アナンとのデュオ。くみこさんを加えたトリオを、思う存分楽しむ。自由に自由に。さらには、若くて有望な作曲家/トランぺッターを加えたカルテットでの演奏。このトランぺッターは、現代音楽の作曲コンクールで入選し、西洋の現代音楽の様式で作曲する作曲家だが、JDともバンドをやっていて、学生時代にアナンに即興を仕込まれ、最初の授業から、ずっと「野村誠に出会うべき」と言われて、野村誠の様々な音楽を体験してきたらしい。また、アノタイに連れ出されて、子どもとのワークショップなどにも借り出されて、様々な現場を体験しているとのこと。ぼくは、この若い作曲家との共演を本当に楽しんだ。とても良い耳をしていて、反応が速く、どんどん着いて来てくれるので、どんどん色々な球を投げてみて、どうやって打ち返してくるかを楽しんだ。

アナンが大正琴を持って来たので、「老人ホームREMIX」から、「大正琴リミックス」をアナンとのトリオで共演。その後、ジャムセッション大会で、アナンが若きベーシストを舞台にあげる。この少年が、ぼくとアナンの即興についてこれるのかなぁ?と思ったが、演奏を始めると、なかなか即興慣れしていてびっくりした。つまり、シラパコーン大学の学生は、アナン、アノタイ、JDという3人の先生達に出会って、とんでもなく柔軟で開かれた音楽家へと化けているのだ。アノタイがイギリスから帰国してシラパコーンで教え始めて5年。アナンもシラパコーンで5年。JDがイギリスから呼び寄せられて教え始めて4年。この5年間で、シラパコーンの学生達は、とんでもない変貌をとげている。最後に、アナンとのデュオで子守唄。これで、タイでのアナンとの濃厚な日々が終わった。