野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

さんし→大田智美リサイタル

エッセンで散髪をしようと思い、以前に切った美容院のKapperに行こうと考えていたけど、フォルクヴァンク音楽大学の動物達が、ぜひ駅前のSansiという美容院に行って欲しいと主張する。誰も行ったことがないが、ただ「Sansi」という名前だから、というのと、最近、同音大の教授のアコーディオニストの御喜美江さんが、桂三枝さんと共演した際に、エッセン駅前には、「Sansi」という美容院がある、と話した、というエピソードがあるだけ。ネタとして面白い、というだけの理由で、つい、うっかり「Sansi」に入ってしまう。いまいちだったら、来週にkapperに行こうと思っていたのに、予想以上に、どんどん切られて、短くなる。これでは、来週Kapperに行って、切ってもらうには、短すぎ。後悔しても始まらないので、ただただ、Sansiのお姉さんのはさみさばきを応援する。富山で手がぶるぶる震えるおじさんに、髪を切ってもらい、途中で震える手で髭そりが始まった時の恐怖に比べれば、こんなことは何でもない。Kapperは40ユーロくらいするのに、Sansiは8.90ユーロだった。

それから、フォルクヴァンク音楽大学へ。早めについたので、カフェに入って、「アコーディオン協奏曲」を練習用に、アコーディオン+ピアノにアレンジする。今は練習用だけど、いずれ演奏会用にアレンジしてみたい、と思えてきた。

そして、Neue Aulaで、大田智美さんのアコーディオンリサイタル。これは、彼女の最終試験のパート1。2003年に、アコーディオン版「FとI」を、東京文化会館で御喜美江さんと世界初演した時、カザルスホールのリハーサル室で初めてお会いして以来、智美ちゃんの演奏に、ぼくは、何度も立ち合ってきました。フランスのLilleで、三重県のホールで、東京の老人ホームで、徳島の音楽喫茶で、埼玉のホールで、愛知芸術文化センターで(武満をオケと共演してた)、京都芸術センターで、ウイーンの音大で、フォルクヴァンク音楽大学で、ベルリンのExploratoriumで、、、、。さっと思い出すだけで、随分、色んなところで、彼女の演奏を聴いてきたし、その度に着実に成長を続けているのを感じさせてくれる。その彼女が、ついに学校の最終試験を迎えているので、ぼくも本当に緊張し、本当にドキドキした。

前半は、クラシック。モーツァルトとバッハ。バッハのパルティータ(H-Moll)は30分の大変奏曲で、本当に聴き応えも弾き応えも十分な曲で、ぼくの「アコーディオン協奏曲」の3楽章も「パルティータ」なのですが、こちらはあっさりしたものだなぁ、と思う。と同時に、こういう素敵な音楽家が変奏曲で色んな側面を見せてくるのを見ると、自分も大変奏曲を書いてみたい、と思えてくる。だって、こちらは、ジャズ風から、モートン・フェルドマン風、演歌風、スティーブ・ライヒ風、シェーンベルグ風、ガムラン風、ロック風、といくらでも、変奏曲を楽しんで書けそうな様々な音楽様式に囲まれて生きてるんだし。いつか書いてみたい。

休憩後は、主に現代音楽。全ての作品は全く違った作曲家の全く違った作品で、細川俊夫の繊細なロングトーンの世界と、グリーグのリリカルな世界と、Uros Rojkoの軽快な無調のタンゴの切れ味と、Jukka Tiensuuのエネルギッシュなクラスターのリズムとを、見事に弾き分けた上で、最後にピアソラを楽しんで、演奏会は幕を閉じた。

共演の二人のアコーディオニストMarkoとHeidiも、タンゴを弾いたピアノの山猿さんも素晴らしかった。ということで、あとは2月11日、ぼくの新作のコンチェルトを初演するのが、最後の試験になります。ぼくはこの曲を、終わりと始まりのために作曲しました。日本は節分かなぁ。鬼は〜〜〜外〜〜〜〜〜!福は〜〜〜うち〜〜〜〜〜〜〜!