野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン1日目

昨夜、ヒューの家で9時半に寝て、そのまま朝8時までぐっすり寝た。時差ぼけがある方が、普通に早起きできるのが不思議。
今日の午後と明日は、ハダスフィールド大学音楽学部の新入生(約100人)との「ホエールトーン・オペラ」ワークショップ。入学して2日目の学生が、2日間で集中的にリハーサルをして翌日にはコンサートをする、という恒例のプロジェクトで、例年はヘンデルの「メサイヤ」とか、ベートーヴェンの「第9」、オルフの「カルミナブラーナ」なんかをやっているらしい。それを今年は、ヒュー・ナンキヴェルと野村誠による「ホエールトーン・オペラ」という未完でしかも、スコアもパート譜もないものに取り組む。入学したての音大生で、しかも楽譜があるものしかやったことのない学生もいっぱいなので、戸惑うのではと、ヒューは結構心配。
で、思い切って、二日目の夕方のコンサートで、「ホエールトーン・オペラ第4幕」の大学生バージョンを作って発表することにした。たった1日で作るオペラ。1日目のワークショップでは、これまでのホエールトーンから抜粋で、こんな音楽の作り方をしてきた、という例を示し、二日目はオペラを作る。
100人で一緒に考えるのは難しいので、5グループに分けることにした。それで、第1場「Blackpool funny」、第2場「Japanese bad news」、第3場「a cappella」・第4場「2 dances」、第5場「Grand finale」とした。滑稽な音楽、シリアスな音楽(しかも彼らの考える日本)、アカペラ、ダンスミュージックでしかも異なった2種類、全員で演奏できるフィナーレの作曲、という5つの違った場面を設定し、各場面の最初と最後が電話にすれば、バラバラに作っても話が繋がるはずだ。これで、大学生とのワークショップの進め方の打ち合わせ終了。続いて、夜のホエールトーン・オペラのワークショップの打ち合わせ。
こちらは、第1幕は全員から言葉をもらって始めた、第2幕は全員が絵を描いて始めた、第3幕は全員が書道をして始めた、だから、言葉でも絵でも書道でもないことがいいと思う。じゃあ、何から始めようか?ぼくと林加奈は、「身体の動き」、ヒューは「音」と言った。じゃあ、音と動きから始めることにしよう。
打ち合わせも終わり、ハダスフィールド大学に。参加した学生は110人。ヒューがプロジェクトの紹介をしている途中で、「ピアノを専攻の学生なんかは、明日は別の楽器を持って来てくれるといい。例えばノムラは、ピアニストだが鍵ハモを吹く」と紹介されたので、その場で鍵ハモの即興をしたところ、バカ受けした。学生の心をひとまずつかめたので、今日はうまくいきそう。
で、ホエールトーン・オペラから抜粋で、合唱「どうやって実がなるの」をやってみた。これは、みんなが好き好きな音程で歌っているうちに、だんだん不協和音から協和音に変化してくる音楽。えずこでは15人くらいでやってたものを110人でやると響きが凄い。目をつぶって聞くと本当に気持ちいい。学生の一人がパイプオルガンの音のようだ、とコメントした。
続いて、魔女の呪文。これは、日本語をイギリス人に書き取ってもらって、その聞き間違いからできた変な言葉をリズミカルに変形して作った声のアンサンブル。そこで、学生にも日本語を聞き取ってもらって、呪文を作ってもらった。かなり面白い。
続いて、ハニーサクルという歌のメロディーを楽器でアンサンブル。単旋律をどう発展させるかを学生に質問。学生のアイディアで膨らませる。弦楽器だけでスタッカートで、移調せずに楽譜を後ろから読んで演奏、など、色んなアイディアがあり、それを試してみる。
最後は、指揮による即興。1が持続音、2がオスティナート(リズムの繰り返し)、3がソロ(自由気ままに)、4が林加奈の空手指揮、と4つのルールを作った。
林加奈の空手指揮が、圧倒的にいい音になったし、8月の中学生とのワークショップで考案したお尻による指揮を、ヴァイオリンとトロンボーングリッサンドに割り当てたら、本当にいい音楽になった。さらに、ヒューが声はどこで指揮したらいい?と聞くので、林加奈の頭で指揮することになった。この空手指揮は最初、山口のしょうぎ交響曲の時(04年1月)に思いついたのだが、日々発展中。
ということで、2:15〜4:30まで、休憩なしでワークショップ。
それから、フィッシュ&チップスを食べに行った。吉野さつきさん、えずこホールの佐野理賢さんもいる。吉野さん、佐野さんと、エイブルアート・オンステージがえずこホールにも協力してもらえると面白いね、と色々夢を語る。こうやって語っていると、そのうち実現する、きっと。
夜のワークショップ、音と動きから始めたら、1時間以上即興が続いた。その中には、そうとうぶっ壊れたシーンとか、美しいシーンなどがあったので、4・5人のグループで、即興の中から気に入ったシーンを抜き出し発展させてもらった。すると、
「うがいと震えと抱きつき」シーン、「船で旅に出る」ようなシーン、「カバのホケットとどつき合い」シーン、「ジャマイカ牛の秘密言葉」シーンができた。どれも抽象的な身体と音での表現で、色んなものに見えるが、それを見た人が「ジャマイカの牛」とか言っているうちに、場面らしくなってくるから面白い。
ちなみにワークショップの映像は、日々ホエールトーンのウェブにアップされる予定。
明日も同様のエクササイズをしてみたら、第4幕のストーリーは自然にできてくる気がする。
明日は、全員にパーカッションを持って来てもらい、パーカッションの場面も試してみようと思う。
9時半にワークショップ終了。日本時間の朝5時半だけに、眠たくて、帰ったらすぐに寝た。