野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

保津川下り

論文を書いてる人の相談にのりながら、作曲のプロセスと比べてみる。
「説得力のある独自の見解を書く」のが論文執筆で、「説得力のある独自の音楽を書く」のが作曲なのだろう。で、「説得力がある」の部分と「独自の」という部分が重要になる点で、多分、論文執筆と作曲は似ている部分がある。
論文の場合は、「論理をいかに明解に展開させるか」が説得力を増やすことにつながると思うし、作曲の場合は、「コンセプトをいかに明解にアピールできるか」、「様々な音楽表現をいかに漠然とさせずに明解にアピールできるか」ということが説得力を増すことにつながるだろう。で、明解さを増すために、捨てなければいけないアイディアがいっぱい出てくる。何を捨てて、何を残すかの決断が作品の説得力を大きく左右することになる。いろんな思いがあり過ぎて、いろんな思いをこめようとし過ぎて、結局何が言いたいのかがぼやけてしまう曲は多い。それならば、言いたいことをもっと絞った方がいい。言いたいことを絞るが、余分な要素を剥ぎ取りすぎると、ただコンセプトを見せているだけの(悪い意味での)『コンセプチュアル・アート』になってしまい、「ああ、そういうコンセプトね」と一瞬でコンセプトが見える上に、それ以上、聴取体験から深まっていくことができない。コンセプトは明解だが、言葉で理解できるものを超えた何かを十分出せるようにするための作業が、作品づくりの作業の大きな部分の一つ。
「独自性」を増すには、論文の場合は、先行研究を知り、それらとの違いを明確にしていかなければいけない。違いを浮き彫りにして、自分の論文の独自性が自覚できれば、そこの部分をもっと深めることが重要になる。作曲の場合は、他の作曲家だったらやらないが自分だけがこだわってやってしまうところが独自性。だから、他人と似ている部分は、誰しも持っているが、そこには着目せずに、他人はやらない部分を自覚する必要がある。で、そこの部分になぜ自分はこだわるのかを明確にしていけば、より自分にしか作れない作品になる。
などと考えて、何にしても作品を作っている人は(論文であろうと曲であろうと)、その人のユニークなオリジナルな世界に踏み込む時、それは、ほぼ間違いなく非常に複雑で漠然としていて、そのままでは、他人に通じないようなものだけど、その複雑なものをいかに自分自身が噛み砕いて他者に伝える表現へと作り変えるか、その辺が大切らしいこと、をあらためて自覚して、これから作曲するのが楽しみになってきた。

それはともかく、今日はレジャー!亀岡から嵐山まで、保津川下り。1時間半の船での川下りの旅。急流で水をバシャン、バシャンと浴びながら、楽しく遊びました。その後、比叡山にドライブ。山頂は霧がかかっていた。むっちゃ楽しい休日だった。