野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

日本作曲年鑑2022/高松市美術館の開館・閉館の音楽

日本現代音楽協会『日本作曲年鑑2022』が届く。ざっと400人近い作曲家の1000曲ほどの新作初演のデータが載っている。ここには、初演の都市名も記載されているので、熊本でどれくらい初演されているのだろう、と思って見てみる。ほとんどが東京なのは当然として、それでも日本全国各地で新作初演があることに気づく。豊中での初演は結構多い。しかし、熊本は全然出てこない。なんと1作品のみだった。

 

出田敬三作曲《明日への扉ー祝い詩》(平成音楽大学創立50周年記念)

 

熊本は書店とか古本屋とか見る限り、かなり文化度高いなー、という印象があるのだが、こと現代音楽に関してはシーンが少ないのかなぁ。でも、今年度から作曲家の稲森安太己さんも熊本大学の先生になられたし、徐々に活発になっていきそうな気はしてるけど、、。

 

高松市美術館の開館・閉館の音楽を作曲すべく、サヌカイトの音源を聴いて、素材に切り分けていく編集作業中。とりあえず、1-2月生まれの人の自由演奏から11-12月生まれの人の自由演奏まで切り出した。そのままでも相当面白い。

 

 

 

ミュシャと音楽/大阪音大の映像教材

熊本県立劇場でのコンサート『田中彩子/有島京リサイタル(ミュシャと音楽)』のチケットを譲り受けたので、聴きに行った。有島京さんのプログラムが、ラヴェルシマノフスキヤナーチェクという選曲で、とても良いプログラムであり、とても思いの伝わってくる好演であった。ロビーで販売されていたCD(人混みがすごかったので購入はしなかった)には、武満やセロツキも収録されているらしいので、ポーランドの作曲家を色々紹介してもらいたいなぁ、と思った。有島さんのことを検索したら、Aleksandra Mlezckoがプロフィール写真を撮っている。2019年のポーランドツアーの時に、ぼくもAleksandra Mlezckoに写真を撮ってもらったので、それも嬉しく思った。後半は、ソプラノの田中彩子さんによるドビュッシーフォーレメシアンプーランクなどフランスものを中心としたプログラム(ピアノ伴奏は有島さん)。11月17日に、この会場で『オハイエくまもと』の15周年記念コンサートのディレクションをするので、歌や言葉や楽器の響き具合などを会場で確認できたことも大きかった。

 

大阪音楽大学の井口淳子先生からいただいたお仕事で、映像教材をつくるというので学生さんたちに行ったワークショップを撮影していただいたのだが、それが公開になった。撮影・編集は久保田テツさん。ぼくのは懐かしく見た。他の講座が次々に公開されていくようで、4月になったらスケジュールがら空きだから、全部見て勉強しよう。

 

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11年目の『世界のしょうない』/夏休み体験ツアー計画/サヌカイトの音源

『世界のしょうない音楽祭』11年目に向けて、豊中市の小林さん、田仲さん、田中さん、大阪音大の渡邊先生と打ち合わせ。先日行われた今年度の振り返りミーティングで出た様々な意見をもとに、次年度のプログラムをどのように組んだら良いと思うかを、豊中市からヒアリングされた。

 

庄内地域で行う

庄内地域で参加者がアクセスしやすい場所や時間で開催する

野村作品を演奏するなど創造的な活動を行う

予算の許す範囲内で楽器体験を行う

地域の音楽団体が参加しやすい形態を探る

 

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学校の夏休みの体験プログラムとして、『瓦の音楽』体験1泊2日プログラムが組めないか、ということで、学校の先生と淡路島アートセンターの青木さんと打ち合わせ。旅行代理店が組むプログラムじゃなくて、手作り感満載のプログラムになりそう。実現できるといいなぁ。

 

3月3日のサヌカイトワークショップの音源を編集して、開館・閉館の音楽を作曲するのだが、とりあえず、まずは音源データを読み込んで、とりあえず音源を聴いてみる。面白い場面がいっぱいあるので、とりあえず気になる素材をピックアップする作業を始める。

 

映画『今、この時』/《土俵にあがる15の変奏曲》

二日続けて外出が続いたので、本日は自宅。たまっている家事や事務作業などをこなしているうちに、全然かたづかないのに一日が終わっていく。

 

新倉壮朗くんを追った甲斐田祐輔監督のドキュメンタリー映画『今、この時』がいよいよ公開になるそうで、推薦文を頼まれていたので執筆。タケオくんの素晴らしさを言葉で伝えることは難しく、なかなかうまく書けない。

 

ロシアのプーチン大統領の再選のニュース。行政の文化担当者が2〜3年で変わると困ることも多いが、国家の主席は変わった方がいい。

 

一昨日《土俵にあがる15の変奏曲》を熊本で再演したいと何人かの方に言われ、ピアノパートは野村が弾くことも可能か、と聞かれたので、そう言えば、この曲は作曲したけどピアノを弾いたことはないので、譜読みしてみる。譜読みが厄介なところはあるけど、弾けそうなので練習。

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ヘリ・ドノ

里村さんが仕事が休みなので、博多方面にお出かけ。

 

九州芸文館で開催中のヘリ・ドノ個展を見る。1990年代にポストカードでやりとりをしたことがあるヘリ・ドノは、インドネシアジョグジャカルタ現代美術家だが、実際に会ったことは(多分)ない。《ワヤン桃太郎》という作品もあり、以前ガムラングループのマルガサリと全5幕の楽舞劇《桃太郎》を作ったものとしては、興味深く見る。

 

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その後、里村さんは、アーティストカフェフクオカで開催のトーク『キュレーションとはなにか』に行き、ぼくは福岡アジア美術館で開催のヘリ・ドノを囲んでのトークイベントを聞きに行く。

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60席用意されている座席は満席で、立ち見が多数いる盛況ぶり。多民族/多宗教のインドネシアで自覚的に多文化主義で創作を行うヘリ・ドノの活動は、非常に的確に批評的だが、ユーモラスで寛容さを持つから、様々な層に響く表現となっている。作曲家の藤枝守さんや、ガムラン奏者の村上圭子さん、アートコーディネーターの宮本初音さん、アジア美術館の中尾さんや蒲池さん、福岡市美の山口さん、などなど、いろいろな人と再会。ヘリ・ドノとも色々喋った。

 

コロナ禍で「歌」が困難な時代を経て、「歌」についていっぱい考えた。だじゃれ音楽の「千住の1010人」と「オペラ双葉山」に向けて、肥後琵琶を始め、語り(歌)について肥後琵琶から考えていこうと思っていた矢先、ワヤンのことを考える。琵琶の語りとワヤンのダラン(人形使い)の語りは、当然いっぱい共通することも多く、肥後琵琶を探求することが、ワヤンに向き合うことにもなるな、と思った。

 

行き帰りの道中で、里村さんと3月31日の熊本市現代美術館でのワークショップの打ち合わせをする。現在開催中のミュシャ展に絡めて、ミュシャの絵をミュージシャンとモシャしてミュージックをつくるようなワークショップかな。

 

田島隆との30年ぶりの共演

熊本のアーケイド街で行われる同時多発ライブイベントStreet Art-plex(以下 Sap)に田島隆くんと出演。タンバリン博士として知られる田島隆さんと出会ったのは、お互いが20代前半だった1990年。ダンサーの山下残くん、トランペットで藤本由紀夫さんのもとでサウンドアートを学ぶ安井献くん、そしてギターでDTMで作曲していた田島くんの3人によるバンドThe Nightsでだった。京都精華大学の木野祭で演奏を見たのが最初で、最後の共演は1994年の京大西部講堂での演劇公演『大温室』の音楽をぼくが担当した時に30人くらいで演奏した演奏メンバーの一人として出演してもらった時。つまり30年ぶりの共演である。

 

30年ぶりなので、実はお互いのその間の活動は全く体験していないので、ネットにある情報などで想像する程度である。しかし、Sapのプロデューサーの坂口美由紀さんからの説明を聞き、どうやらSapのExtravaganzaというイベントの趣旨が、ジャンルにカテゴライズされない様々な驚きをストリートで展開することだと知り、だったら田島くんだろうとお誘いしたが、これが想像を絶する素晴らしさだった。

 

タンバリンでどれだけ超絶技巧と言っても、所詮タンバリンだろう、と人は思う。タンバリンを追求して極めるといって想像できる範囲というのは、そこまで大きくない。しかし、田島くんの演奏を聴くと、目から鱗、耳から鱗が何十枚と落ちる。えーーーーーっ!どこから、そんな音が出るの?意味不明、理解不能、信じられない。でも、それが現実なのだ。30年間に何があったのか、その経路は知らないけれども、その間に田島隆はたどり着いた世界がある。音楽には、誰もが見過ごす抜け道や裏道がある。タンバリンを掘り下げても、すぐに行き止まりや袋小路に入ると思うから、それ以上は掘り下げない。掘り下げても、少々裏道に入り込むくらいで、極限までやったと思う。しかし、裏道も抜け道も行き尽くして、もう道がないと思ったところからがスタートなのだ。道もないし、ここは進めないだろうと誰もが思う場所に、無理矢理に穴をこじ開け進んでいった先に別世界がある。その別世界にいきなり連れていってもらった。驚愕である。

 

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ぼくは、ピアノと鍵盤ハーモニカの二刀流で臨んだが、田島くんはタジバリン1個だけでやって来た。たった1個のタジバリンと野村の二人で、時には3人や4人で演奏しているようなサウンドにもなり、時には非常に繊細な音色になり、ページを次々にめくっていくように、音の世界が目眩く展開していった。あまりに息が合っているので30年ぶりの共演だと思った人は皆無で、かなり頻繁にデュオでやっていると勘違いされた。でも30年ぶり。次回が30年ぶりでは待ちきれないので、もっと共演を続けていきたい。

 

イベントには、鈴木潤さんや北口大輔くんや伊左治直くんとボサノバで何度も共演していた犬塚彩子さんも出演していて20年ぶりくらいに再会したり、P-ブロッのしばてつさんが出演していて、ケンハモセッションがあったり、京都の舞踏家の袋坂ヤスオさんも出演していて、セッションでご一緒したり。袋坂さんのパートナーで元P- ブロッの小松紀子さんなど、色々な再会もあり、同窓会のような気分もあったが、一方で新しい出会い(主催者でかつサックスの葉山さん、長身のパーカッショニストMAYAさんほか、、、、)も色々あり、、、、。

 

3月31日には、熊本市現代美術館でもワークショップもあるので、熊本市でも色々活動が増えて嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーキョー・シンコペーション/KIACコミュニティプログラム

沼野雄司『トーキョーシンコペーション 音楽表現の現在』(音楽之友社)読了。これは、とても明快で面白い本だった。音楽の話なのだが、その背景にある哲学を炙り出すべく、展覧会の話や映画や文学の話などが出てきて、そこから車線変更するように、現代音楽の作曲家の話にスライドする。ジェンダー、視覚、災害やホロコースト、テクノロジー、日本性、などなど、毎回のテーマをしっかり浮き彫りにしながら、作曲家やアーティストが、その問題にどう向き合っているか?ちゃんと凡庸じゃなく取り組んでいるか?ということを問うている。刺激を受ける良書である。

www.ongakunotomo.co.jp

 

JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)とKIAC(城崎国際アートセンター)によるミーティング。3年計画で続けてきたコミュニティ・プログラムの3年目について。演劇によるまちづくりを進めてきた豊岡市の前市長に対して、アンチの政策を掲げた現市長が3年前に当選した。そのこともあってか、次年度のKIACの総予算は、今年度の予算から大幅削減らしい。JACSHAの3年目も予定通りのプランでは行えないらしく、新たな調整をどうしていくかについても話し合った。