野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ローカルとグローバルと総合格闘技と総合芸術

ローカルとグローバルについて。朝、新田一郎著の「相撲 その歴史と技法」を手に取り読む。そして、相撲の多様性について、いろいろ考える。現在、相撲と言えば、大相撲のことをイメージする人が多いが、アマチュア相撲もあるし、日本各地に神事相撲があり、相撲は多様にある。この多様な相撲の起源を辿っていくと、奈良時代平安時代に行われた「相撲節会」という宮中の儀礼の存在が浮かび上がってくる。さて、この「相撲節会」について、様々な想像をすることができるが、新田先生は、始まった頃の「相撲節会」は今の総合格闘技のようなものだったに違いない、と推測する。これには、驚いた。各地方に異なる戦い方の相撲があったはずで、その地域ごとに、突出した強い人がいれば、その人の戦い方がスタイルとして定着していくかもしれない。全国各地から強者を集めての「相撲節会」が開催された当初は、多様なファイティングスタイルの相撲人が出場し、異種格闘技戦の様相を呈したのだ、と言う。これは、とても面白い視点だと思う。でも、ぼくが空想する「相撲節会」は、違う。「ネッテイ相撲」や岩槻の「古式土俵入り」や「烏相撲」など、現在ある多様な相撲が重なり合うような不思議な儀式。それは、総合格闘技というよりは、総合芸術。そこには、楽器もあれば、舞もある。そんな総合芸術を体験してみたいが、平安朝のような権力も財力もない。権力も財力もないのに、そんな総合芸術が人々の協力によって実現すると素敵だな、と思って、ぼくは活動している。

 

鍼灸に行って、体調を整えてもらう。家に戻り、ピアノを弾く。8月25日の大田智美さんとのコンサートに向けての練習し、新幹線に乗り、福岡に移動し、大分のiichiko総合文化センターの八坂プロデューサーと夕食。いろいろ語り合う。

 

 

詩人の吉増剛造と25年ぶりの共同作業へ

台風一過で、京都は雨もあがり、遠征時の洗濯物もすぐに乾いてありがたい。

 

来週の月曜日/火曜日に、石巻に行き、吉増剛造さん(詩人)、島袋道浩くん(美術家)と交流する。

 

www.reborn-art-fes.jp

吉増さんと出会ったのは、1994年だから25年前。あの時、ギャラリーそわかの屋根の上に、吉増さんと一緒に上り、吉増さんが銅板を叩き、ぼくら路上バンド(野村誠、島袋道浩、杉岡正章鶴、山下残、砂山典子、中村未来子)と共演した。そして、吉増さんの詩の朗読に、何車線もある道路の反対側から歌い、そして、道路を演奏しながら横切り、ギャラリー内に入って、詩人と路上バンドが遭遇した。その直後に、ぼくはイギリス留学に出かけてしまったが、吉増さんから詩集などを送っていただいたり、一時帰国した水戸まで来ていただいたり、帰国した直後は、どぜう鍋をご馳走になりながら、東京で吉増さんと何かしようと打ち合わせをしたりして、すぐにでも吉増さんと何かをする日が来ると思っていた。2001年のグループ展で、「島袋野村芸術研究基金」をやった時にも、見に来てくださったり、何度か遭遇したのに、気がついたら何もしないまま25年の月日が経っている。美術家の島袋くんが、リボーン・アート・フェスティバルのキュレーターとして、吉増さんと何かをする場を設定してくれた。吉増さん、島袋くんと過ごす時間は特別なものになるだろうと思う。楽譜を書くことについて、吉増さんと話してみたいなぁ。いろいろ自筆の楽譜を持っていってみよう、と思う。または、吉増さんに聞かせるための詩を作曲してみようかなぁ。

 

最近の趣味は、鉄瓶でお湯を沸かす時に、沸騰する直前に音が急に変わって、高い倍音がさーっと消えて、それがほんの数秒だけ続いて、そのあとに、ブクブク沸く。その音の変化が楽しくって、お湯を沸かす音楽が楽しい。

 

最近の別の趣味は、現代音楽に関する本を読むこと。昨日までの遠征の移動中に読んでいた本は、アルヴィン・ルシエ編「Eight Lectures on Experimental Music」で、昨日の帰りの新幹線の中で、ずっと読んでて、数ページを残してほとんど読み終えたので、本日、お湯を沸かしながら読了。これは、ルシエがウェスリアン大学で教えていた時にゲストを招聘した8つのレクチャーのテープ起こし。ラ・モンテ・ヤング、スティーヴ・ライヒメレディス・モンク、フィリップ・グラスなど、8人の作曲家のレクチャーで、冒頭のルシエの紹介、最後の質疑応答もあって、気楽に読めて面白い。ラ・モンテ・ヤングは、最初から学生に質問するように行って、質問に答える形で進める。ヨーロッパは伝統ガチガチでかたくって、アメリカは自由で創造的なんだけど、アメリカ人の多くが芸術なんて要らないってなるのに、ヨーロッパだと芸術が大切だって重宝される、そこがヨーロッパのいいとこ、と言う。メレディス・モンクは、自分自身の声とか身体から音楽をつくっているだけあって、自分自身の音楽のことを終始話しているのに、スティーヴ・ライヒは、他の作曲家について、いろいろと語る。シェーンベルクもケージも初期の作品がいい音楽で、結局演奏されてるのは、初期の作品だ、と言ったり、シュトックハウゼンの「ルフラン」という曲は、シュトックハウゼンのフェルドマン。シュトックハウゼンの「シュティムング」という曲は、シュトックハウゼンのラ・モンテ・ヤング、と言ったりする。フィリップ・グラスは、テーマを限定した方がいいと、作曲家が劇場で作品をつくることに限定して話をする。演出家や振付家や劇作家と共同することにフォーカスする。作曲家それぞれの個性が、こうしてレクチャーの書き起こしだけでも見えてきて、面白い。JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の3人の作曲家も、きっとレクチャー書き起こして並べても、それぞれの個性が浮き上がって面白いだろうな、などと思ったりした。アメリカの1930−40年代生まれの実験音楽作曲家8人を、短くつまみ食いできる本。学生に向けて話しているので、わかりやすい。

 

www.barnesandnoble.com

本日は、京都は五山送り火。税務署に行って確定申告もしたけれど、大文字山が赤々と燃えているのも、じっくり見た。

 

 

 

 

あやしいサーカス団

午前中は、鵜木絵里さんの歌のワークショップを見学。「お母さんといっしょ」とか、幼児向けのテレビ番組はあるけれども、幼児と親がこんな至近距離でオペラ歌手に童謡を次々に歌ってもらったりするのは、なんとも贅沢な体験。その中でも、突出していたシューベルトの子守歌という静かな美しい歌声と、「アイアイ」のノリノリな歌声を、(野村が進行役をする)今日の最後のワークショップでもやってもらおうと考えた。

 

午後は、野村の鍵盤ハーモニカのワークショップ。子どもたちに、いきなり浅鍵盤や頭で黒鍵を演奏をやってもらったり、鍵盤ハーモニカ体操をやったり。その後、一番低い音、一番高い音をロングトーンで伸ばし、高くも低くもない音を伸ばしてもらう。それを何度も続けた後、それぞれが押していた音を書き出して、中川賢一さんにピアノで、野尻小矢佳さんにヴィブラフォンで演奏してもらい、共演。共演ついでに、二人に、ササスの現代作品「マトルズダンス」を演奏してもらいながら、鍵盤ハーモニカでクラスターとかで狂乱の共演。いきなり現代音楽デビューの子どもたち。さらに、昨日作曲した「あやしいサーカス団」を中川さん、鵜木さん、野尻さんと一緒に演奏。鍵盤ハーモニカで、子どもたちと対旋律を作曲して、共演して、練り歩く。あやしいサーカスパレード。最後には、「あやしいサーカス団」のパレード→(鍵盤ハーモニカのツバ抜きで寝息の音を出しながら)「シューベルトの子守歌」→マトルズダンスと狂乱の共演→「アイアイ」、とやって終了。90分で、とんでもない体験をいっぱいしてくれて、みんな有難う!

 

そして、最後のワークショップは、野村ナビゲートで、中川さん、鵜木さん、野尻さんもいて、60分の間にリハーサルもして、最後にみんなでコンサート。これは、本当にすごかった。急遽スタッフが作ってくれたサーカス団のアクセサリーをつけて、練り歩く「あやしいサーカス団」→寝息で「シューベルトの子守歌」→指揮に合わせて打楽器を叩く現代音楽体験の「マトルズダンス」→絶叫する「アイアイ」→ワークショップで生まれた動画と共演する「夏休みこどもアートサーカス」。怒涛の60分。最高だった!みんな!駆け抜けるような2日間で、6つのプログラム。全て終了!みなさん、おつかれさまでしたーーー。

 

3人のクラシック音楽の素晴らしい音楽家と野村でのワークショップ/コンサート。かつては、クラシック音楽の世界は、もっと閉じていて、野村なんかは入れなかったに違いない。でも、時代が変わってきた。クラシック音楽クラシック音楽だけに留まっていなくって、いろいろ新しいことに開いてきている。野村の音楽とシューベルトと現代音楽がワークショップの中で並列になって存在する。世界はまだ破滅したわけではないので、やっぱり面白い時代に生きていると思う。なんで、ぼくはこんなに脳天気で楽観的なんだろう?いろいろ絶望的な知らせや辛い状況を、知人や友人から聞いて、滅入ることも多そうなんだけど、こんなにポジティブな気持ちで生きていられるのは、本当にワークショップなどで音楽的な交流をしている体験のおかげだと思う。本当に感謝だ。

 

 

 

 

 

 

 

夏休みこどもアートサーカスを熱演!

野村誠が監修して、他の音楽家をゲストに招いたのではなく、今日から始まった「夏休みこどもアートサーカス」の「音楽のせかい」(@としまセンタースクエア=豊島区役所)は、ピアニストの中川賢一さんが監修。中川さんに呼ばれて集まった音楽家が鵜木絵里さん(ソプラノ)、野尻小矢佳さん(打楽器)とぼくだ。鵜木さんも野尻さんもお仕事させていただくのは初めてで、非常に楽しみに臨んだ。

 

朝は、中川さんのワークショップ「ピアノびっくりドリームワンダーランド」。登場するなりピアノ演奏から始まり、全身全霊で子どもたちにピアノの仕組みを説明し、調律師の中島さんとピアノ解体ショーを始め、アクションに直接触る機会を設けたり、ピアノの響板にオルゴールをつけて、ピアノの響く仕組みを説明。とにかく、中川さんのピアノ愛で、全力でピアノという楽器を目一杯説明している素晴らしい30分のショーだった。ここで、10分休憩して後、子どもたちと音を描くワークショップ。中川さんが弾き、子どもが描く。中川さんは、みんなが描く絵一つひとつにコメントする。同じ音楽でも、人によって感じ方が違って、みんな違う絵になる。そこがいいんだ、と中川さんが訴える。最後に、子どもたちの描いた絵をスクリーンにスライド投影し、それとピアノ演奏の共演で終了。

 

午後は、野尻さんの「リズム・ラボへようこそ!」。野尻さんは、オーシャンドラムの響きを子どもたちに聞かせるところで登場後、続いて、ボディパーカッションで、コール&レスポンスなどをして、リズムを楽しむ。ジャンベを叩きながら口唱歌して、楽譜のない音楽でリズムを口で覚えていくのだ、という。その後、銅鑼を鳴らして、様々な響きの違いを聞かせ、さらにスーパーボールをはじめとする様々なマレットで銅鑼を子どもたちに演奏してもらい、響きを味わう。次に、バラフォン(アフリカの木琴)を登場させて、マリンバの鍵盤をバラバラにして、一人一音ずつ木琴の鍵盤を持って鳴らし、野尻さんのバラフォンとバラバラ木琴でセッション。中川さん曰くリゲティ(20世紀のハンガリー出身の現代作曲家)のよう。その後、ビブラフォンで、ジャズを野尻さんと中川さんで演奏し、最後に、全員に様々な打楽器を配って大セッション大会。簡単なリズムで、のびのびとセッション。素晴らしい。

 

そして、コンサート「小さな音楽会」。全部で12曲のコンサート。まず、中川さんによるピアノソロで、クラシック3曲(ムソルグスキードビュッシー)を美しく奏で、続いて、鵜木さんが登場し、歌曲を4曲(モーツァルトアメイジンググレースなど)を表情豊かに歌い上げた。そして、野尻さんが登場し、ジョン・プササズ作曲「マトルズダンス」という打楽器と(アンプリファイした)ピアノの壮絶なバトルが繰り広げられたあと、野村の登場で、ここから残り4曲が野村作品。鍵盤ハーモニカ・イントロダクションを独演し、野尻さんのボディパーカッションの「Slapping Music」をペチペチ演奏して体が赤くなって後、中川さんと「相撲聞序曲」を爆音で演奏。そして、最後に、新曲「夏休みこどもアートサーカス」を中川さん、野尻さん、鵜木さんと野村の4人で演奏。鵜木さんがはじけまくって、エルヴィス・プレスリーの化身のようになって歌ってくださる大熱演で、こどもたちにも大喜びしてもらえた。

 

ということで、今日のワークショップとコンサートは終了。明日の準備をする。明日の最後にワークショップ&ライブ「みんな集まれ 音楽deサーカス」があり、これに向けての打ち合わせをじっくりやる。本日初演した「夏休みこどもアートサーカス」を、明日のワークショップでもテーマ曲にしたいと言っていただけたので(自分の曲が愛されるのは嬉しい)、これに肉付けして明日は進めることになると思う。ホテルに戻り、明日のワークショップに向けて、「あやしいサーカス団」を軽く作曲し、みなさんに譜面を送付する。明日もメチャクチャ楽しみだー。

 

 

 

 

戸惑いはどこかへ飛んで行った

鶴見部屋でのJACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)合宿が終わる。最後に、國王神社を訪れた。坂東市は、1100年ほど昔に、平将門が活躍した土地。将門は、天皇に反逆し、自ら新皇を名乗り、討ち取られて、京都でさらし首になり、後に、将門の呪いなどを恐れられる。これは、朝廷側の論理であり、将門の側から見たら、また別のストーリーがあるだろう。坂東市では、至る所で将門が祀られていて、将門がいかに人々に愛される英雄であったかを思い知る。実際、國王神社に行くと、将門の祟りどころか、非常に安らかな気が充満している。メディアの伝える情報だけで判断してはいけないと、つくづく思う。

 

池袋に移動。明日、明後日、「夏休みこどもアートサーカス」という催しがあり、野村の出番は、明日のコンサートと、明後日のワークショップ。鍵盤ハーモニカのホースを忘れたために、楽器屋さんを何軒もめぐる。そして、ついにホースを見つけて購入。しかし、ヤマハが大人向けピアニカを昨年販売開始をしたことを知らず、試奏したところ、購入の価値ありと判断し、購入。明日のコンサートでは、こちらも使ってみよう。

 

豊島区役所に移動。共演の中川賢一さん(ピアノ)、鵜木絵里さん(ソプラノ)、野尻小矢佳さん(打楽器)とのリハーサル。野村の新曲「夏休みこどもアートサーカス」も4人で演奏してみて、譜面通りやっているのに、即興セッションしているみたいな雰囲気で楽しく演奏。ソプラノの鵜木さんは、こうした楽譜の音楽は初めて演奏するそうで、最初は戸惑っておられたが、演奏を重ねるごとに、どんどん、どんどん、どんどん、本領を発揮し、戸惑いはどこかへ飛んで行った。そして、ビデオに撮って、みんなでチェックして、明日に向けて準備万全。その他、野尻さんと「Slapping Music」、中川さんと「相撲聞序曲」をリハーサル。野尻さんと中川さんによるマトルダンスというデュオも迫力満点の音楽。明日が楽しみ。

温泉でふやける

JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)

 

温泉でふやける日

 

37度の源泉掛け流しと

 

塩サウナ

 

マッサージ

 

肌がきれいになり

 

体のいろいろな滞りが解消

 

夜、天皇の人権について語る

 

天皇に人権がない

 

憲法は国民には基本的人権を認めるが

 

天皇は国民とみなされないのだろうか

 

矛盾もあってもいいし

 

矛盾のない完全な体系などあり得ないと

 

ゲーデル不完全性定理を思い出すけれども

 

誰もが人として同じ権利を持っている

 

それはさすがに認めたいと思う

 

それから

 

天皇制について語る時に

 

覚悟を持たないと語れないのでなく

 

いろいろな人が気軽に語れるといいと思う

 

もっと気楽に語れるようにしたい

 

温泉でふやけるて

 

体が喜んだ

 

静寂こそが相撲

本日、JACSHA岩槻場所が開催された。歴史的な1日だった。

 

まず、今日の催しは、芸術祭の主催ではなく、一般市民の主催だったことが、喜ばしいことだった。3年前は、芸術祭(さいたまトリエンナーレ2016)で、何度も岩槻を訪ねた。地域に伝わる「子ども古式土俵入り」をリサーチし、町をリサーチし、ワークショップを開催した。芸術祭のディレクターチームは、芸術祭のために雇用されていて、芸術祭が終わると解散する。次の芸術祭には、また新たなディレクターチームが結成されている。だから、3年前の芸術祭が終わったら、岩槻との繋がりは途絶えるかと思っていた。

 

ところが、市民の方々が、続けたい、継続したいと、声をあげてくれた。JACSHAと岩槻で行なった活動を継続するために、市民ボランティアが力を合わせて、企画を提案してくれた。今日のコンサートは、歯医者さんの自宅にある小さなホールで開催された。それは、歯医者さんを受診している時に、歯医者さんに直接、コンサートがしたいのだけれど、と交渉して下さったからだ。継続したい方々は、さいたま「トリエンナーレハーモニー」という団体を結成して、今日の企画を運営してくれた。みなさん、通常の自分の仕事がある方々が、仕事の合間の余暇の時間を使って、企画/運営してくれた。潤沢な予算があるわけではない、手作りの企画だった。

 

ワークショップでは、継続してきたことが繋がっていった。釣上に伝わる土俵入りと、笹久保に伝わる土俵入り。二つの違う土俵入りを、同時にやってみる。やるだけだと、二つは噛み合わない。でも、やりながら、相手の動きを見て、声を聞いてみる。すると、異なる二つが噛み合い始める。兵庫県の竹野に伝わる竹野相撲甚句と大相撲に伝わる相撲甚句を二つ同時にやってみる。お互いの歌声が、重なり合うと偶然のハーモニーが生まれる。これも、歌うことに専念するだけでなく、相手の声を聞いてやると、噛み合い始める。二つの土俵入りが出会って、新しいものが生まれる瞬間。二つの相撲甚句が出会って、新しいものが生まれる瞬間。オスとメスから子どもが生まれるような意味で、新たな生命が生まれる瞬間に立ち会ったようでもあった。作品はつくるのだろうか?それとも、作品は生まれるのだろうか?生まれてくる瞬間だった。

 

左翼と右翼は両翼だ。東と西から力士があがる。見合って、見合って、息を合わせて、立ち合えば相撲になる。議論になる。でも、息を合わせなければ、それは、喧嘩であり、相撲ではない。相手を尊重し、自分の意見を発しながらも相手の意見を聞かなければ、それは議論ではない。相撲を成立させるためには、行司がいる。行司は命令はしない。立ち合い、お互いに息を合わせるのを見届ける。会議を成立させるために、会議ファシリテーターが必要になることもある。お互いの主張に耳を傾け、お互いを尊重し、伝え合う状況を成立させるために、会議の行司が必要になる。

 

自分の意見を発しながら人の意見を聞く態度。自分の楽器を演奏しながら、他人の音を聞く態度。それには、聞く練習が必要になる。相手を打ち負かすことが目的の競技だったらば、様々な戦略を立てて、相手を撹乱したり、自分に有利に進めればいい。でも、相手と共演するアンサンブルだったら、こうした行為は、アンサンブルを混乱させることになる。だから、一ノ矢さん(元力士、高砂部屋マネージャー)は、そうした競技としての相撲に警鐘を鳴らし、こう言った。

 

静寂こそが相撲

 

コンサートのプログラムは以下の通り。

 

 

 

  1. 「相撲聞序曲」(2017) 作曲:野村誠
  1. 「すもうハノン」(2017)より 作曲:鶴見幸代

      III.「すり手ムカ手四つ」

      V.「顔ぶれ、ぶつかり」 

  1. 「ネッテイ相撲聞C.300」(2018) 編曲:JACSHA
  1. 「但馬土俵開きのうた」(2018) 作曲:野村誠
  1. 「こなた精霊」(2017/2019) 作曲:樅山智子
  1. ワークショップ成果発表
  1. 「すもうハノン」(2017)より 作曲:鶴見幸代

      VI.「ちゃんこ作り」 

 アンコール 「竹野相撲甚句ファンファーレゲエ」 作曲:鶴見幸代

 

 

 みなさん、ありがとう。