野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

静寂こそが相撲

本日、JACSHA岩槻場所が開催された。歴史的な1日だった。

 

まず、今日の催しは、芸術祭の主催ではなく、一般市民の主催だったことが、喜ばしいことだった。3年前は、芸術祭(さいたまトリエンナーレ2016)で、何度も岩槻を訪ねた。地域に伝わる「子ども古式土俵入り」をリサーチし、町をリサーチし、ワークショップを開催した。芸術祭のディレクターチームは、芸術祭のために雇用されていて、芸術祭が終わると解散する。次の芸術祭には、また新たなディレクターチームが結成されている。だから、3年前の芸術祭が終わったら、岩槻との繋がりは途絶えるかと思っていた。

 

ところが、市民の方々が、続けたい、継続したいと、声をあげてくれた。JACSHAと岩槻で行なった活動を継続するために、市民ボランティアが力を合わせて、企画を提案してくれた。今日のコンサートは、歯医者さんの自宅にある小さなホールで開催された。それは、歯医者さんを受診している時に、歯医者さんに直接、コンサートがしたいのだけれど、と交渉して下さったからだ。継続したい方々は、さいたま「トリエンナーレハーモニー」という団体を結成して、今日の企画を運営してくれた。みなさん、通常の自分の仕事がある方々が、仕事の合間の余暇の時間を使って、企画/運営してくれた。潤沢な予算があるわけではない、手作りの企画だった。

 

ワークショップでは、継続してきたことが繋がっていった。釣上に伝わる土俵入りと、笹久保に伝わる土俵入り。二つの違う土俵入りを、同時にやってみる。やるだけだと、二つは噛み合わない。でも、やりながら、相手の動きを見て、声を聞いてみる。すると、異なる二つが噛み合い始める。兵庫県の竹野に伝わる竹野相撲甚句と大相撲に伝わる相撲甚句を二つ同時にやってみる。お互いの歌声が、重なり合うと偶然のハーモニーが生まれる。これも、歌うことに専念するだけでなく、相手の声を聞いてやると、噛み合い始める。二つの土俵入りが出会って、新しいものが生まれる瞬間。二つの相撲甚句が出会って、新しいものが生まれる瞬間。オスとメスから子どもが生まれるような意味で、新たな生命が生まれる瞬間に立ち会ったようでもあった。作品はつくるのだろうか?それとも、作品は生まれるのだろうか?生まれてくる瞬間だった。

 

左翼と右翼は両翼だ。東と西から力士があがる。見合って、見合って、息を合わせて、立ち合えば相撲になる。議論になる。でも、息を合わせなければ、それは、喧嘩であり、相撲ではない。相手を尊重し、自分の意見を発しながらも相手の意見を聞かなければ、それは議論ではない。相撲を成立させるためには、行司がいる。行司は命令はしない。立ち合い、お互いに息を合わせるのを見届ける。会議を成立させるために、会議ファシリテーターが必要になることもある。お互いの主張に耳を傾け、お互いを尊重し、伝え合う状況を成立させるために、会議の行司が必要になる。

 

自分の意見を発しながら人の意見を聞く態度。自分の楽器を演奏しながら、他人の音を聞く態度。それには、聞く練習が必要になる。相手を打ち負かすことが目的の競技だったらば、様々な戦略を立てて、相手を撹乱したり、自分に有利に進めればいい。でも、相手と共演するアンサンブルだったら、こうした行為は、アンサンブルを混乱させることになる。だから、一ノ矢さん(元力士、高砂部屋マネージャー)は、そうした競技としての相撲に警鐘を鳴らし、こう言った。

 

静寂こそが相撲

 

コンサートのプログラムは以下の通り。

 

 

 

  1. 「相撲聞序曲」(2017) 作曲:野村誠
  1. 「すもうハノン」(2017)より 作曲:鶴見幸代

      III.「すり手ムカ手四つ」

      V.「顔ぶれ、ぶつかり」 

  1. 「ネッテイ相撲聞C.300」(2018) 編曲:JACSHA
  1. 「但馬土俵開きのうた」(2018) 作曲:野村誠
  1. 「こなた精霊」(2017/2019) 作曲:樅山智子
  1. ワークショップ成果発表
  1. 「すもうハノン」(2017)より 作曲:鶴見幸代

      VI.「ちゃんこ作り」 

 アンコール 「竹野相撲甚句ファンファーレゲエ」 作曲:鶴見幸代

 

 

 みなさん、ありがとう。