野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

BankARTでの島袋道浩展の開幕記念パフォーマンス『音楽が聞こえてきた』

久しぶりのBankART。池田修さんが亡くなられてからBankARTで演奏するのは初めて。今日のライブを通して、池田さんは突然旅立たれたけど、池田さんが培ってきたスプリットはここ横浜BankARTにしっかり根づいて生きているのだ、と痛感した。野村誠ソロパフォーマンスと言うけど、これまで築いてきた場の力に押し上げてもらって、ぼくは演奏した。こういう場所があること、こういう人がいること、こういう繋がりがあることは、本当にかけがいのないことだと、心から思う。そんなライブをBankART Stationで開幕した30年来の盟友の島袋道浩くんの個展の場でできたことは、本当に嬉しい。

 

今日は、熊本から我が相方の里村真理さん(熊本市現代美術館学芸員)が駆けつけてくれたので、ライブ前の時間を使って一緒に、横浜美術館の浅井裕介展(3日間だけのスペシャル展示)を見た。横浜で採取した土を主な画材とした絵画。7枚の大きさや形の違うパネルを組み合わせて、異なるパターンの絵画になるように作られている。エレベーターにも作品がある。浅井くんからもいいエネルギーもらった。

 

BankART Stationに戻り、色々準備。19時、島袋展のオープニングレセプション。美術業界を中心に色々な人が来てくれて、超満員の盛況。コロナの頃には想像できない混雑具合。こういう時代に戻ったと、天国の池田さんも笑顔で語っていそうな気がする。

 

立ち見の遥か後ろからは、前が全然見えない大盛況の中、島袋くんの挨拶、李禹煥さんの乾杯の挨拶があって、野村のパフォーマンスが始まる。あまりにも見えないので、そして、島袋くんの挨拶の中の言葉「やったことのないことをやる」に刺激され、観客の中でぼくを肩車してくれる人を募ってみる。初対面の人に肩車してもいただき、その上で鍵盤ハーモニカ。音楽に合わせて下の方が踊ってくださると揺れる。怖いけど楽しい。

 

続いて、受付の方に移動し、バーカウンターの中に入って演奏。やっぱり見えにくいので、気がつくとカウンターの上にのぼって演奏。

 

次は展示室に移動。島袋くんのインスタレーションとの共演。お客さんも周りを囲み、しゃがんでくださる。雨漏りを受ける缶と雨漏りのセッション。渋い静かな音楽の中、子どもが玩具を落とす音がする。これぞ「音楽が聞こえてきた」だ。子どもにもパフォーマンスに参加してもらい、時々コト、っと音を出してもらう。雨どいも演奏。お客さんが乾杯の時のグラスやボトルを持っていて、それを床に置く音からも「音楽が聞こえてきた」。こんな感じで観客参加のセッションにもなった。

 

さらに奥の展示室に移動。ここでは、島袋くんの映像作品と共演する予定で、観客参加の予定はなかった。雨漏りのビデオに加え、カシーン、アート・リンゼイというブラジルの音楽家のビデオに、生身の野村誠が加わったカルテットのはずだった。ケンハモを吹くつもりだったが、気がつくと声を出していた。そして観客の中にいた巻上公一さんが登場した。島袋くんが背中を押してきたのだ。巻上さんも加わったクインテットになり、超豪華。ぼくは声以外にトライアングルを激しく床に叩きつけたり、ケンハモ吹いたり、パンクな演奏になっていく。巻上さんの多彩な声を堪能。

 

過剰な音の渦の後、最後は非常にシンプルな音。作曲とは「曲がったものを作る」と言う小杉武久さんを2013年に島袋くんが能登の野外に連れ出し撮影した貴重な映像との共演。小杉さんがコンタクトマイクを引きずりながら、能登の海辺の砂の上や流木などなどと触れ合う音に、ぼくは会場の椅子を引きずり床と触れ合う音でセッション。そのまま小杉さんの投影されている画面の中に入っていくべく、壁を擦る。壁を擦り小杉さんの音と姿と絡み合う。最後は、また画面から離れて、画面を見ながら微かなケンハモを吹いた。

 

大きな拍手をいただく。共演の巻上さん、島袋くん、映像の小杉さん、カシーン、アート・リンゼイ、肩車してくれた人、子ども、お客さん、裏方で動いているBankARTのスタッフたち、、、、そして天国の池田さん。ソロパフォーマンスだったけど、気持ちとしては大合奏だった。

 

その後は、トークの大合奏だった。BankARTだなぁ。残った人々が熱く語り合う時間が終電まで数時間続く。初対面の人もいっぱい声をかけてくれた。久しぶりの人もいっぱいだった。(31年前に野村と島袋を出会わせた木方幹人さん、島袋くんとの路上バンドのメンバーだったダンサーの砂山典子さん、昔の野村のアパートのかつての住民の会田誠さん、東日本大震災の直後にBankARTで野村とデュオライブした友部正人さん、創造都市について熱く語り合った鳥取大学名誉教授の野田邦弘さん、CDノムラノピアノをリリースした小山冴子さん、島袋くんの本やノムラノピアノのデザインの林琢真さん、オノセイゲンさん、フェルナンデスさん、新倉壮朗さん+新倉書子さん、山口裕美さん、写真の梅田彩華さん、、、、、などなど、色々な方々にお会いしてお話して、本当にBankARTが生み出す素敵な渦に、こうして関われていること、嬉しく思う。

 

島袋道浩展は、9月まで開催。8月24日には、今福龍太さんとのトークもあるよ(ぼくは、南九州の相撲リサーチ中で残念ながら参加できないけど)。みなとみらい線新高島駅の改札出てすぐにあるので、行ってみてね!

bankart1929.com