野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

《おっさん姉妹のために》リモート世界初演

本日、野村誠作曲の「おっさん姉妹のために」が、おっさん姉妹(片岡祐介鈴木潤)により世界初演になった。ちょうど5ヶ月前に、おっさん姉妹による遠隔2台ピアノの配信を見て、タイムラグがあって音がずれ合うのが面白いので、ずれ合う遊びの曲を書いてみたくなって、衝動的に作曲した曲。本当に、書きたいように書いた音楽。実際にYouTubeでの遠隔演奏ライブ配信をリアルタイムで聞いたのだが、めちゃくちゃノリノリでカッコイイ演奏で、面白い音の組み合わせが次々に出てくるし、さすが2人の演奏。幸せだった。東京と京都で遠隔演奏していて、しかもタイムラグがあって演奏しているのに、こんな演奏になっているのが素晴らしい。二人は非常にリズム感がよく、即興性にも富んでいるので、きっとうまくいくと思ってワクワクしながら書いたのだが、実際の演奏は想像を上回る躍動感であった。しかも、アンコールで、味わいが全然違う解釈で、いきなり再演の大サービス。こちらもよかった。

 

おっさん姉妹は、コロナ禍の中、オンラインで2台ピアノの演奏を活発に行っている。それはまるで、第2次世界大戦中のポーランドでコンサートが全く開催できなくなった中、作曲家のルトスワフスキとパヌフニクが、カフェで2台ピアノのライブをしていたことを想起させる。唯一、ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」だけが残っている以外、当時の二人の若者のデュオの楽譜は残っていない。おっさん姉妹の数多くの演奏は、YouTubeアーカイブとして残っている。ぜひ、演奏を聴いてほしい。以下の動画の51分40秒あたりから。

 

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ちなみに17分50秒あたりから、ぼくがリクエストした架空の作品のタイトル「フーガとトッカータとファンファーレ 嬰ヘ長調」の演奏もとても良かったーー。

 

今、小沢昭一の「私のための芸能野史」を読んでいるのだが、本の中に出てくる放浪芸人たちが、めちゃくちゃ面白い旅の体験とかあって、今はカタギになっちゃってつまんない、などとインタビューで答えている。カタギにならずに、いつまでも面白い芸人でいたいと思う。潤さんも、片岡さんも、カタギになってつまんなくなる気配がなく、ますます面白くなっていく。素晴らしい。

 

一方、世阿弥の本を読んでいて思うのは、世阿弥は、単なるモノマネ芸でしょ、と言われそうな猿楽を、「天下の御祈祷」と聖徳太子が書いているんだと権威づけする。江戸時代に、喧嘩や揉め事が起こって何度も禁止されていた相撲を、平安時代の古式に則ってやっていると権威づけした吉田司家。逆に、自分たちの芸能を権力に認めせるために、歴史を捏造するくらいの演出で権威づけした人々の生き延びる力も凄いと思う。

 

今日は、池田邦太郎さんと久しぶりに電話で打ち合わせ。「千住の1010人 in 2020年」に出演していただく予定だったのが、オンライン企画として組み直そうとしているので、可能性を探っている。

 

3日前にやったサウンドウォークの音源を整理して、それぞれの音について簡単な記述をする。