野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

タイムラグのラグタイム

色々なプロジェクトをやっていて、それぞれに喜びを感じて活動している。と同時に、プロジェクト開始の時点でぼくが妄想したこと、イメージしたことは、かなり大きいものであることが多く、それには、結構、時間と労力を要するので、一年や二年では簡単にたどり着けない。ライフワークになってしまう。

 

例えば、2011年ー2013年にかけて、2年間かけて行った「千住だじゃれ音楽祭」の集大成として「音まち千住の大団縁 第1回定期演奏会」を開催して、2年間の成果としては十分の内容でもあったと思うけれども、以下の動画で、ぼくは「まだ1合目かもしれない」と言っている。もっと深めたい、もっとやりたい、と思っていても、現実には一歩一歩進めていくしかないので、2013年の時点でのアウトプットは長いプロセスの中の一つの通過点として、評価をしてほしいと思う。

 

https://www.youtube.com/watch?v=t6GIeoYyVaI

 

だから、プロジェクトの中から、少しずつ芽が出始めてきて、これから成長していこうとしている。それらが成長すると、とてつもないものが生まれてくる。この未だ見ぬとてつもないものについて、未だ存在しないものの姿をぼくはイメージしているのだけれども、それをなかなか共有することが難しい。

 

だから、ぼくが過去の仕事をきちんと記録したいと言う場合は、自分の全集をつくりたいわけではない。過去の仕事の多くは、まだ芽が出たばかりの状態であることが多い。しかし、その中に様々な芽が出ている。様々な芽が出ているので、そこに水をやって育てれば、一気に成長すると思っている。その芽を大切にしたいのだ。

 

さいたまトリエンナーレ2016で行ったJACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)の数々の活動は、あそこで完結したものではなく、芽が出かけたものが数々あった。それらの芽を掘り起こすべく、今、当時のJACSHAフォーラムのテープ起こしをしている。今朝の「四股1000」でも、4年前のフォーラムを音読した。

 

伝統的なものを博物館的に保存するのではなく、伝統文化を継承することと、現代的な文化が共存する。そのバランスが相撲は絶妙で、行司と勝負審判がいると同時にビデオ判定も参照しているし、近代的な筋力トレーニングなども取り入れているのに、怪我人が出たら、土俵に盛り塩をしたり酒をまいたりする。これは、単に相撲を賛美するだけでなく、自分自身も作曲家として、どういう音楽をつくっていきたい、そういう意味で相撲は非常に参考になると思っている。今朝の「四股1000」で音読した2016年11月のJACSHAフォーラム。

 

今日は、「千住の1010人 in 2020年」のために、25台のピアノのための《Etude for Zoom session 5》と、タイムラグのあるラグタイム《Etude for Zoom session 6》を作曲した。《Etude for Zoom session 5》は、25の断片をずれ合いながら反復していく曲で、《Etude for Zoom session 6》は、ラグタイムをやってみようと思って作曲した。20世紀初頭のアメリカのラグタイムが、現代のZoomでタイムラグで同時に演奏できないリモート演奏で、どんな風に変形されるのか、という興味で作曲。