野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

角界のマルチン・ルター

今朝の「四股1000」。相変わらず《さいたまトリエンナーレ2016》で行ったトーク「相撲道と作曲道」を音読している。一ノ矢さんの言葉、相撲は元来、混沌としていた、が印象的。相撲に関する書籍は数多くあるが、相撲と作曲をめぐるトークは珍しい。それに、元力士の一ノ矢さんや呼出しの邦夫さんが応えてくれているのが、貴重だ。こんな貴重な宝を眠らせておくのはもったいない。このトークの音読が終わったら、行司の木村朝之助さんとのトークの音源をテープ起こししたいと思う。あと、JACSHAのウェブサイトに、鶴見幸代の文章と里村真理のイラスト付きノートで、連日「四股1000」レポートが公開されている。これが毎日、読み応えがあり、本当に面白い。

 

jacsha.com

午後は、愛知大学のオンライン授業。門限ズのジョホンコ(倉品淳子)の演劇ワークショップを見学。ZOOMで、大学生たちが自宅から出席している。それぞれのプライベート空間の中にいるので、画面上で複数の日常がマス目で並んでいる状況自体が劇的で、演技しないで、それぞれがそこで何かをしているだけで、じわじわと滲み出てくるものがある。そこに、ほんの朗読をかぶせるだけで、いろいろ訴えてくるものがある。そして、自宅だから、小道具が自由に登場する。特に登場するのがぬいぐるみ。驚くべきほど、大学生はぬいぐるみと暮らしているのだ。おそらく、普段から、日常生活の中で、ぬいぐるみたちと芝居をしているに違いない。それは、各自の秘密なのだろうけど。あと、学生たちがオンラインで表現することへの適応スピードが半端なく、すっかり慣れてきている。こういうことがもっと続くと、もっと何かになるのかも。授業の最後に、野村誠名物の無茶振りが出て、ジョホンコさんに即興演劇やってもらい、学生たちも腹を抱えて笑っていた。

 

「初代高砂浦五郎」の作曲作業も大詰め。6曲目の「高砂襲名」をやる。とにかく、能の「高砂」の耳コピーをして、自分なりに真似してみる。そもそも、世阿弥が「風姿花伝」などで猿楽能の基本はモノマネだと言っているのだから、じゃあ、モノマネのモノマネをやってみようと、モノマネし続ける。声で真似てみる。能に合わせてピアノで共演してみたり、なんとか「高砂」になろうとする。そうやって譜面を書くと、なんだか几帳面で生真面目な感じがして、つまんない。結局、相生の松というのは、根っこで繋がっているということ。根っこさえ繋がれば、全然違ってもいいはずで、もう少し伸びやかに根っこだけ繋がっているような感じにしたい。だから、今日は、少しずつ自分の硬さをほぐす作業だった。能と相撲と和歌と融合と合体とか意気込んでいるうちはダメで、意気込みを飛び越えて力が抜けていかないと、作曲道にならない。

 

里村さんに「高砂」のことで相談にのってもらうと、また、疑問点などいっぱいツッコミが入る。初代高砂浦五郎が「角界のマルチンルター」と呼ばれていたり、「土俵の日蓮」と呼ばれていたりしたことをもう一度、掘り起こしてみたり、高砂襲名のきっかけになった姫路の殿様(酒井忠邦)が、明治12年に26歳で他界しているので、高砂を授けた時点では、まだ10代という驚愕の事実も。

 

作曲完成まで、もう一息。