野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

劇場は照明が美しい

神奈川芸術劇場KAATにて「妖怪ケマメ」のクリエーションが続く。本日より劇場入り。

 

劇場は照明を美しく見せるために、壁などが真っ黒。黒は光を反射しないから、真っ黒の世界で、暗転がきれいにできる。逆に、美術館とか写真スタジオとか、壁が真っ白だったりすることも多い。これは、光を吸収せずに反射する壁。劇場は、光を吸収し、照明が一つずつきれいに見えるようになっている。

 

しかし、我々音楽家にとっては、床や壁の反射で問題になるのは、光ではなくて音だ。劇場は光を優先して、光を吸収する壁や床になっている。音楽家にとっては、どれだけ音の振動を吸収するのか、反響するのかが大きな問題になる。だから、コンサートホールなどでは、床や壁が木材でできていたりすることも多いし、逆に吸音材で壁の反射を消す録音スタジオもあったりする。

 

何にしろ我々音楽家が劇場に入ったら、その音環境に合わせて、適当な音を作っていかなければならない。ところが、照明よりも音が難しい点は、この状態で完璧な響きの音を作っても、実際に観客が入ると、人間自体が吸音材になってしまうので、響きがさらに減ってしまう。だから、観客が入る前の状態では、観客に吸われる音をある程度想定した上で、音響をプランしなければならない。

 

ということで、音楽家のシルヴァンと一緒に、ああでもない、こうでもない、と音の響きのことも進めている。一方、照明のアルリックは、着々と照明のプランを進めている。これで、明日には劇場内で照明付きでの通し稽古ができる。

 

それにしても、ぼくは、白い壁の世界(美術)でも仕事をするし、黒い壁の世界(舞台芸術)でも仕事をするし、木の壁の世界(クラシック/現代音楽)でも仕事をするし、こうした定型にはまらないユニークな場所でも活動をする。劇場で美術展をしたらどうなるだろう?美術館で舞台作品をやったらどうなるだろう?コンサートホールで、美術展や舞台作品は可能なのだろうか?時には、違った環境に持っていくと面白いことも起こる。