野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

The Composer and the Audience

今日は、作曲家と聴衆について、Peter WiegoldとGhislaine Kenyon編の「Beyond Britten -The Composer and the Community」という本の第15章John SlobodaとPeter Wiegoldの対談「The Composer and the Audience」を読んだ。

 

作曲家がコミュニティの文脈で作曲する時に。下手すると自治体や委嘱者のゴーストライターのようになって、自分自身の作家性が欠落してしまう危険性のこと。現代音楽の作曲家が、観客が自分の作品をどう感じたのか、そうしたことを知りたいと思う作曲家もいれば、観客の反応に興味のなく、「観客にどんな質問をしてみたいですか」という問いを投げかけられて、「そんな質問をされたことはない」と怒り出す若手現代作曲家もいるという。

 

その中で紹介されていたアメリカのLiz Lermanというダンス関係者のCritical Response Processというのが、興味深かった。4段階のプロセスで、作家と観客が対話するもの。1)観客が作家に向けて、作品のポジティブな感想を言う。2)作家が観客に質問する。3)観客が作家に向けて、作品に関するニュートラルな質問をする。4)もし、3)では聞けなかった批判的な質問がある場合に、観客は作品を批評する質問をする。作家は、この質問を拒否する権利を持つ。

 

というものだった。ぼく自身は、観客と対話したいと思う作家なので、こうしたアプローチの研究もとても興味がある。

 

今日は、7月にイギリスで行われる展覧会に向けて、「しょうぎ作曲」の楽譜をいろいろ写真にとったりしつつ、昔の「しょうぎ作曲」の音源も少し聴いた。「しょうぎ作曲」を考案した1999年から20年経った。この方法は、多様性に関する一つの回答だった。多言語、多民族、多ジャンルといった音楽の多様性に対して、作曲を異なる楽譜の書き方を、共存/並存させる試み。全員が共通の音楽言語を使わずに、対等に作曲する方法を目指したものだ。そのことを、なかなか説明したり、実践する機会が十分にとれないまま20年も経ってしまった。しょうぎ作曲の音源も楽譜も、ほとんど公開されていない。自分の怠惰に呆れるが、いい加減整理しないと前に進めないので、少しずつでもやっていきたい。

 

ちなみに、Peter Wiegoldのマンチェスター駅での音楽。彼も20年近く前に、日本に呼ばれていて、その時に担当していた越谷のホールの職員が吉野さつき。あれ以来、日本に来ていないんじゃないかな。ぼくが彼にロンドンで会ったのは、2006年頃の気がする。

 

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