野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

徹夜の音楽会(二日目)

深夜1時頃まで、「徹夜の音楽会」の観客と出演者とスタッフが、語り合う座・座談会が繰り広げられました。芸術フォーラムであり、飲み会であり、こどもたちがトランプしたり、色々なことが同時にあちらこちらで起こっておりまして、当初の予定の0時消灯はとても無理。しかし、宿泊客の特典である「寝付き小説/寝付き音楽」をやらないわけにもいかないので、午前1時に宴会を強制終了し、皆さん、お布団に入り、消灯。

いしいしんじさんと野村は別室に。いしいさんは机に向かい、ノートと鉛筆とワイヤレスマイクを準備。野村は、調律の狂ったホンキートンク・ピアノに向かう。いしいさんが小説を書き始める少し前に、まず野村のピアノの一音を鳴らす。深夜のパフォーマンスが始まる。観客は隣の部屋なので、姿が見えない。子守唄としてのピアノと小説。ゆったりしたテンポでの語りと音楽。眠りの世界を目指して、まったりと始まる。このまま、まったりと時間が流れて終わっていくと思っていた。いしいさんの小説は、透明な犬から生まれた双子の犬の話。白い犬が銀で、黒い犬が闇という名前。犬の物語が進んでいくうちに、トラックが幼稚園児の一団に突っ込みそうになり、物語が展開していく。ぼくのピアノも全然違う響きの世界に突入する。こどもたちは助かるが、犬の銀のお通夜になる。お通夜って、夜を徹して騒ぐことなんだ。物語の世界と、ぼくらの現実世界は、ねじれて交差し、その物語とぼくの音楽もねじれ合いながら、交わっては離れ、離れては交わり、この物語は、いしいさんがつくっているけれども、ぼくがつくっていて、でも、この家がつくっていて、あっちに寝ている人々がつくっていて、ご先祖様がつくっているし、ぼくのピアノは、ぼくが弾いているようで、いしいさんの言葉が弾いていて、この部屋の空気が弾いていて、みんなの寝息が弾いていて、満月が弾いていて、台所で飲んでいる橋本さんが弾いていて、遥か遠くにいる友人が弾いているのかもしれない。だから、ぼくのピアノがどう展開するかなんて、ぼくに分からないように、いしいさんの物語も、どこに行くのか、いしいさんにも分からない。いしいさんの話が、おやすみ、おやすみ、おやすみなさい、と語られて、鍵盤が戻ってこないピアノの最後の一音を響かせて、ピアノが眠りに入って、夜中の演目が終了した。tupera tuperaの亀山さんが、いつの間にか部屋に来ていて、いつの間にか眠っていた。

台所に行くと、スタッフたちが飲んでいた。なんでも、1時間もやっていたらしく、もう午前2時だった。時間の流れが不思議だ。台所で、今書いた小説についての話になり、いしいさんは、やる前には、20分くらいで、だいたい筋もこんな感じにしようと思っていたのが、全く違う世界に行ってしまって、予想外の体験だったらしく、そのことについて、語り合う。そして、いしいさんがノートを見ながら、もう一度、読んでくれた。深夜の追加プログラム。

スタッフの何人かはここまできたら徹夜する、と意気込むし、野村幸弘さんは、今日は徹夜する覚悟で来た、と言うし、この愛すべき人々と語り合うのは、なんと愛おしい時間なのだろうと思うけれども、歯を磨いて寝ることにした。2時半すぎのこと。

3時間半ほど寝て、朝6時15分に目覚め、いしいさんを起こし、「目覚まし小説、目覚まし音楽」のスタンバイ。定刻の6時45分にスタート。朝の小説は、深夜とは全然違う心持ちで、頭もぼーっとしているし、集中するというよりは、ぼーっとしながらの時間。みんなが起きて、朝食タイム。朝食タイムに、いしいさんが、ドラえもんのび太が、トンカツの食べ方で喧嘩する創作話を語っている。縁側で庭を見ながら朝食をとる人々。気がつくと、いつの間にか縁側で朝のサクマ体操が始まっていて、自然に首を曲げ、ストレッチ。気持ちいい。こどもたち、犬のジジも、参加したり、庭を走り回ったり。佐久間さん、池の上の石に飛び移る。二人組でのストレッチ。tupera tuperaの亀山さんに肩をもんでもらい、心地よい。庭には、キツツキが木をトントんする音、ウグイスの声、色々な音があり、ストレッチしながら、庭を満喫。

そんな風にしながら、徐々に解散の時間になっていく。皆さん、本当に本当に、濃密な時間をありがとう。ゆったりした優しい気持ちになることができている自分にきづく。

京都への帰り道に、北白川ラジウム温泉により、少し疲労がとけていってくれた。夜には、西部講堂でアルヴィン・ルシエの公演があるらしいが、さすがに出かける元気はなかった。昨年、ルシエに捧げた「I am Shitting in a Loo」を作曲したし、箏曲「りす」の世界初演は、アメリカのウェスリアン大学で、同じコンサートにルシエの新曲もあったし、学生時代の90年にルシエのレクチャーとインスタレーションも行ったし、再会したいと思ったのですが、無理。そこまで欲張ってはいけません。

でも、無事に「徹夜の音楽会」終わってよかったーー。皆さん、本当に本当にありがとう。