野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

徹夜の音楽会(一日目)

朝、東京から京都に移動。自宅に帰宅後、今日の本番に使うリンゴを購入し、やぶくみこさんの車で楽器を積み込み、大津のながらの座・座へ。

サポートスタッフの皆さん、テキパキ働く心強く、安心感いっぱい。ありがとう。やぶくみこ(ガムラン音楽)、佐久間新(ジャワ舞踊)、ニシジマアツシ(サウンドアート)、野村幸弘(映像)、いしいしんじ(小説)と次々にゲストアーティスト到着で、だんだん凄いことになってくる。

襖に小説は書くし、床の間に映像をプロジェクションするし、古庭園で舞踊は踊るし、洋間のテーブルはアルミホイルでカバーされ、図形楽譜に化け、ガムラントイピアノや鍵ハモが鳴り響く。ここは、公共ホールとかではなく、橋本さんの家であるから、橋本さんがルールだ。橋本さんがOKと言えば、OK。通常のホールなどで許可されないことでも、ここでは、橋本さんの判断で許可される。許可されると言っても、個人のお宅で開催するのだ。生活の場で行うことだ。変な規制をする必要はないが、この生活を意味なく乱すことではなく、できれば生活をより豊かにするための実験でありたいと思う。

16時半には、開場。お客さんが徐々に集まる。17時、定刻に開演。深夜までつづくイベント。開演時刻を遅らせては、深夜が思いやられるので、定時にスタート。

いつの間にか、お座敷は人々でいっぱいになっている。縁側に座っている人もいる。外光が差し込む。いしいしんじさんが、小説を襖に書く。言葉を書きながら語られる小説に耳を傾け、ぼくは鍵ハモを手にとり、音楽が始まる。小説の世界と現実の世界が時々交わる。ぼくの音は、時々、言葉の意味に引っ張られていくし、ある時は、声の抑揚に合わせていく。ある時は、気配を感じて演奏するし、ある時は、書かれる文字に触発される。そして、その場にいる人々の視線や、庭の木々や池の声と呼応するように、音楽と小説が交互に絡み合いながら進んでいくのだ。物語を聴いているはずなのに、小説から浮き上がる様々なイメージが踊っているかのようにうごめき、漢字が読めるようになったイヌが、俺ソーセージと言って、今日の最初のプログラムが幕を閉じた。拍手、拍手。

野村幸弘さんの時間に入る前に、少し休憩をとる予定で、夕食を配り始める段取りであったが、幸弘さんが「映像美術史を見せるなら、今だ」と突然閃き、急に変更し、映像美術史からスタート。キリスト教徒の人が見たら驚きの衝撃の絵画の解釈を語る映像、そして、幸弘さんのトーク。客席では、夕食が少しずつ配られていく。イギリスのバーミンガム郊外での「ウマとの音楽」(2004)、ハンガリーでの「Stampok Park」(2009)、マレーシアでの「Basaga Hotel」(2015)と上映。いつの間にか、外は暗くなっている。幸弘さんへ、拍手、拍手。

縁側に出ても、既に肌寒い。池の端に佐久間新さん。気がつくと、ぼくは過去/現在/未来をつなぐ橋の上に立っていた。鍵ハモを吹こうとして、しかし、すぐに楽器の音を出す気にならず、鍵ハモは呼吸を始める。沈黙の夕闇。満月はまだここからは見えない。こどもの声が沈黙を突き破り、こどもの声を真似るところから、気がつくと、ぼくは声を出し、それは、動物の言葉なのか、異星人の言葉なのか、異国の言葉なのか、奇声なのか。身体が動き、佐久間さんが徐々に、過去から未来へと、この世からあの世へと旅をする。ぼくは、鍵ハモを思いっきり吹いた。佐久間さんは、木に登り、苔の斜面を舞い、日本がインドネシアになり、ぼくは、ペロッグ音階を奏でていた。気がつくと、濁った池の水を遊ぶ。そして、あの世からこの世に、ぼくらは帰って来た。拍手、拍手。

tupera tuperaさんが始まるまで30分ほどの夕食休憩。裏方さん、大活躍。料理人の方など、橋本さんから紹介、紹介。そして、室内で大人も保育園児のように集合し、tupera tuperaの絵本の時間だよーーー。みんなで、スッポーーーン!と大合唱。tupera tuperaの絵本は完結した作品としてでなく、ぼくたちが加わることで世界が広がる乗り物なんだ。ぼくたちは、亀山さん、中川さんに誘われ、絵本に参加する。ぼくも楽器で参加する。次々にページがめくられる。丸い絵本もあるし、細長ーーーーい絵本もあるし、宇宙の向こうの831光年の彼方と、今日ぼくがあとでかじるリンゴは実は近いのかもしれない。ロウソクとロウソクの間を旅する宇宙旅行の先のキャベジ。亀山さんは、ハイテンションで絵本をめくり、うんこをつくり、最後には、いしいしんじさんもパンダになって、ぼくもパンダを抱いて、「パンダ銭湯」だーー。いい湯だな、パンパンパン!拍手、拍手!!

テンション高く盛り上がった後に、やぶくみこさんのガムラン演奏で、呼吸のゆっくりな時間になる。音の余韻がウヮンウヮンと響き、インドネシアのようで和風でもあり、満月の夜空の星座たち。座敷の座、星座の座、座布団の座、正座の座。音の座、響きの座。歌の座。銀河鉄道では、宮沢賢治もその場小説を書くのだろうか?ガムランの響きと鍵ハモ。「鳩のなく庭」の3拍子。トイピアノと鍵ハモとグンデル。観客の中には目を閉じて聴く人がいっぱいいる。満月の響きとスピードと。音が解け合っていく。拍手、拍手。

ニシジマアツシさんとの「偶然の音楽」。ぼくが選んだ楽器は、鍵ハモではなく、リンゴ。リンゴの三重奏。リンゴをかじる音を、暗闇の中で聴く。耳が開かれてくる。そこに、女の子が、ずるい、ずるい、と言い始める。よほど、りんごが食べたかったのだろう。別室(洋間)でニシジマくんのドローンが鳴り始める。センサー、ろうそく。石の上にろうそく。そこは、偶然の音楽は、占いの音楽なのか、宇宙船なのか、実験室の音楽なのか。音が変化していくと、世界の位相が少しずつずれていく。ぼくは、座敷で、薄暗闇の中、アルミホイルの演奏を始める。微かな音だけれども、キラキラと音がする。こどもがやってきて、何しているの、もったいない、と難癖をつけられる。ぼくは、アルミホイルの音を聴かせる。最初は難癖をつけていた子が、「きれいな音」と言ってくれて、アルミホイルの音に夢中。アルミホイルで音を出す時間。佐久間さんは、アルミホイルで踊っている。開演から間もなく6時間となるクライマックスは、渋い繊細な音の遊びだったが、これを、みんなが夢中になってやってくれている。明るくなり、6プログラムが終了。拍手、拍手。

ふとん運び、ふとん敷きワークショップが完了し、宿泊の人々が、寝る準備を始めているが、気がつくと、宴会が始まっている。みんなが語り合っている。いつの間にか、座・座談会。としているうちに、いつの間にか、日付は4月1日になっていた。(続きは、明日の日記へ)