野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

地域アート

東京へ移動。作曲家の宮内康乃さんとお会いして、ゆっくりお話をした。宮内さんは、2011年ぼくがJFC作曲賞の審査員をした時の受賞者でもあり、この夏からACCの助成でニューヨークに半年滞在されるとのことです。作曲に関する考えや音楽をつくっていく体験など、非常に共感できるところの多い作曲家なので、話が尽きることなく、いっぱい話し込んでしまいました。

その後、本日の宿泊先、木方幹人さんのお宅にお邪魔する。ここでも、色々な話題が出て、最近話題の本らしい「地域アート」の実物を初めて見ました。深夜まで話し込んだので、あまり読むことはできませんでしたが、ざっと斜めに読んだ感想では、この本の編著社の藤田直哉さんのアートに対するラブレターのような本です。「ぼくがこんなに愛してやまないアート、ぼくはこんなに芸術に期待を抱いているんだ」、という著者の思いが溢れているような熱烈なラブコールです。これほどまでに現代芸術に期待を寄せてくれる人がいるということを、ぼくは嬉しく思います。思いが溢れている、情熱の本です。これは、愛のメッセージです。

逆に、愛のメッセージなので、何だか意味不明なのです。「地域アート」という言葉の定義(p.7)も、えっ、これでいいの?という定義なのです。

「地域アート」とは、ある地域名を冠した美術イベントのこと

地名が頭につくイベントは「地域アート」と呼ぶって、それでいいんですか?ヴェネチアビエンナーレも取手アートプロジェクトも、地名が頭についているから、どちらも地域アートってことですよね。両者の性格は、全く違うのですが、、、。横浜美術館で開催する横浜トリエンナーレも地域アートで、美術館やギャラリーではない地方の様々な場所で開催されるアサヒアートフェスティバルは、企業名を冠しているので、地域アートではない、ということになります。うーむ。でも、本文中で使われている「地域アート」は、どうも別の意味で使われている、っぽいのです。

論理的には、整合性はない、矛盾はいっぱい、そもそも、何について批評しているのかすら分からない。でも、現代芸術に対する熱烈な思いが、とにかくメチャクチャでいいから出したいと思わせた、個人的な思いの凝縮された本です。450ページ以上ある本です。

でも、完璧ではなくても、本書は世に出されなければならなかったのだと思います。

と、あとがき(p.452)にあります。これは、アートにこんなに期待している人がいる、アートをこんなに愛している人がいる、ということを再確認するための本です。ラブレターの文章は、メチャクチャでもいい。思いが伝わればいい。アート関係者の皆さん、このラブレターの思いを、しっかり受けとめてくれたら、きっと著者は喜ぶのではないか、と思います。