野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

熱タイ音楽隊(バンコク)2日目

イカやバナナが有り難いタイのバンコクの朝食。朝8時半にホテルを出発し、Mahisom Hall, SCB Parkを目指す。子どもオペラ「Rossignol en cage」のリハーサル会場だ。銀行が所有する巨大なホールの舞台に、巨大スクリーン。舞台手前が、オーケストラ。客席の左右にも、スクリーンが設置。作曲家のアノタイとジャンダヴィは、映像プロジェクションのテストに必死。

10時には、大学生たちのユースオーケストラも揃い、リハーサルが開始される。チェロの鼓太郎くんは、ユースオーケストラに入って演奏。他の熱タイ音楽隊メンバーは、客席の様々な場所に点在するようにアノタイから指示が出る。「野村はどうするの?」とアノタイに確認すると、「ユースオーケストラの中で演奏。1−3曲目と14、15曲目は、譜面通り演奏し、それ以外は即興」という無茶ぶりが来る。

熱タイ音楽隊は、昨日のリハーサルでは、役者たちに近く、メンバー同士みんなが近くにいた。しかし、今日は舞台とも遠いし、メンバーとも離れて、孤独に点在。メンバー、不安そう。しかも、アノタイは、本番前で余裕がないので、どこでどう演奏すべきかの指示なし。メンバー、さらに不安。よって、野村から指示が出る。リハーサルは、失敗して良い、色々試して良いと。

11時頃、通し稽古が始まる。1曲目に知らない曲がある。なんじゃこりゃ。譜面ないよ、と思うが、どうやらタイの国歌のようだ。いよいよゲネプロかと思うが、照明や映像も、トラブルあり。役者は衣装をつけていない。午前中の通しで、午後にゲネがあるのだろう。通し稽古が終わり、アノタイから熱タイ音楽隊に指示が出る。「3つのルールで演奏して欲しい。1つ目は、1曲目は演奏しない。2つ目は、各自、どれか1曲選び、その曲で演奏。3つ目は、最後の曲は、全員が演奏する。以上」とのこと。1曲目は国歌なので、演奏されては困るのだろう。2つ目のルールは、客席の8ケ所に点在したミュージシャンが、15のシーンのうち各自一曲選ぶことで、時々、客席で音がする。しかし、広い会場なので、演奏する近辺の人には大きく聞こえるが、遠くの人にはあまり聞こえないので、客席の場所によって、各1回、サプライズがある。最後のシーンは会場全体と一体感のあるフィナーレにしたいようだ。それにしても、鼓というのは、近くでも決してうるさくないのに、遠くまで音が飛ぶ。会場に点在したメンバーが、どこでも聞こえる。マイクで増幅されておかしなことになっている舞台の音と対照的。よくできた楽器だ、と感心。

お弁当の焼きそばが支給されて、昼食後、ゲネプロがあるのか、と思いきや、4時の本番までは、照明、音響、映像のテストで、リハーサルはないとのこと。えっ、あれで本番なの!と驚く。近くにスターバックスがあるので、お茶を飲みながら、談笑。東京藝大教授の熊倉純子さんと、PA(音響)の問題について語り、箏の松澤佑紗さん、鼓の小川実加子さんとは戦後の日本の教育のこと、「君が代」のことなどについて話し、手づくり楽器の小日山拓也さんと、だじゃれ音楽の4年間を振り返り、チュラロンコン大学大学院生の作曲家のクックさんとは、作曲談義。ちょっと、よい休憩時間になる。

本番直前、オーケストラの指揮者の場所に行って、オケメンバーに指揮をする仕草をして遊ぶ野村。全員を静止して、突如「ケロ!」とか「リン!」とオーケストラメンバーに言ってもらう指揮をする。「ウォーミングアップ」と言いながら、みんなで「ケロリン唱」をする。

その後、客席に点在するメンバー一人ひとりと会話を交わす野村さん。不安そうなメンバーと最終確認。「どの曲で入るか決めた?大丈夫。基本は芝居を見て、やりたくなる気分の曲、一曲だけ。しかも、ずっとやらないでも、いいんです。例えば、こんな感じ」などと説明して回る。

本番は、16時開演が、タイ時間で、16時半頃スタート。国歌は突然起立して演奏。観客も起立。その後、オペラ始まる。本番になって、初めて衣装をつけてのオペラ。言葉がタイ語なので、衣装があると、あの人が警察官。この人が先生、ここがお父さん、など、分かりやすくなって、日本人に理解しやすくなり、助かる。

終演後、客席にいるアナンから、映画監督さんを紹介される。客席に点在するミュージシャン、効果的とのコメントなど、歓談。「瓦の音楽」についても話す。指揮者のダムリー先生のご招待で、レストランへ。シラパコーン大学と東京藝大で、色々学生の交換などに意欲的なダムリー先生。

夕食後、皆さん、お疲れさまでホテルに戻るが、野村は、いつものようにアナンに拉致されて、一日に複数の用事をするスケジュール。MCOTのFM100.5というラジオでのアナンのレギュラー番組に出演。一人で行く予定が、箏の松澤さん、創作楽器の小日山さんが立候補してくれて、3人で出演。22:00−24:00まで2時間の生番組。「瓦の音楽」を紹介し、音楽とコミュニティの話をし、「千住だじゃれ音楽祭」について語り、小日山さんが画家でありギタリストであり、そして楽器を色々作り、紙太鼓の説明をし、松澤さんの箏の実演があり、そして、野村さんの鍵ハモ実演。即興で鍵ハモに口琴や箏が加わる。10分のニュースの後、さらに、23:10より、箏について色々な質問が飛び交い、弟子入りしたら、最初のレッスンは、柱の並べ方のレッスン。2回目は、礼儀作法のレッスン。3回目は、爪の付け方のレッスン、とのことで、まず楽器で音を出す前に、礼儀作法から叩き込まれるのだなぁ、と感心する。その後、箏の質問を振り切るべく、「詳しくは29日の午前中にレクチャーあるので、もっと興味ある人はそっちに」と野村。さらに「即興に興味がある人は、29日の夜にライブあるよ」と宣伝。英語で軽く言うと、アナンと司会の二人が、どんどんタイ語で膨らませてくれる。「千住だじゃれ音楽祭」の音源より、「ケロリン唱」と「ごんべえさん」を紹介。「ごんべえさん」では、鼓の音も、タイ語も、箏や尺八も、鼓太郎君の朗読も、アナンのタイの歌も、ピアノも、みんなの楽器も、コール&レスポンスも、変拍子のユニゾンも入っているので、イメージしてもらいやすかったのでは。司会者の人も、「言葉の意味が分からなくっても、この曲はぼくを楽しくしてくれる」と言う。「最後に、ハッピーニューイヤーの気持ちを込めて短い即興をしよう」とアナン。演奏しているうちに、24時。生放送、終了。おつかれさまでしたーー。

スタジオにダムリー先生現れる。驚く。えっ、朝から指揮して、ここに!ぼくらをホテルまで車で送ってくれるために!大感謝。ホテルに戻ると1時。ああ、おつかれさま。