野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

クチン4日目

ボルネオ島のクチン滞在の4日目。こちらの最終日で、明日はクアラルンプールへ移動。午前中は道教のお寺に参拝。台湾のお寺に似ている。

午後は、まず即興セッション。尾引さんのイギルと声に合わせて、アナンが胡弓を弾いている。集まってきた音楽家が一人ずつ演奏に加わっていき、だんだん音が分厚く多層的になっていく。全員の音が重なり、そこから自然に音楽が流れ出し、イメージが次々に変容していく。言葉だと日本語、英語、インドネシア語の3カ国語で意思疎通が大変で、それぞれの音楽のバックグラウンドも全く違う文法であるのに、この音楽家たちが一緒に音楽ができているのは奇跡的なことだと思う。それぞれの音楽家が、既に音楽の中で(ある種)多言語を語れるようなマルチな音楽性を持っているからだろう。

続いて、クチンでの4日間の体験のエッセンスを曲にする、というコンセプトで演奏をした。即興演奏でありながら、サペのメロディーを思い出すところから始まり、イバン族の踊りの中で出てくる声や、サラワク文化村でのショーの中での吹き矢や、ウマイという郷土料理や、現地特有の乾杯の仕方まで、様々な思い出が詰まった演奏をした。

宮城道雄の「春の海」を尺八と箏で演奏すると、片岡さんが木琴、アナンが胡弓で即興的に加わる。北斎北斎漫画を書いた当時は、まだ「春の海」という曲は存在していなかったのに、これは北斎漫画の四重奏ではないか!色々な交流が続いている。

雨が続いたが、今日は晴れたので、ホテルの中庭に出て、映像撮影。中庭での即興演奏は、短い時間と言っていたのに、この4日間の即興のフィナーレを飾るべく、楽器だけでなく環境と戯れながら、美しく可笑しく音楽の会話を続けた。

北斎漫画四重奏の中の「鳳凰」を練習し、25日のセッティング確認、今後のスケジュール確認などをして、サラワク川の対岸に出かけて、打ち上げをした。こちらに来て、初めての雲のない星空。オリオンが天頂に上り、シリウスカノープスとともに輝いている。賑やかな冬の星座をTシャツ一枚で眺める南国。クチンの最後の夜を味わいながら、荷作りをする。