野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

クチン3日目

ボルネオ島のクチンでの国際交流企画3日目。北斎バンドは、箏、尺八、イギル、木琴という編成。そこに、インドネシアとタイの達人が加わっています。本日はサラワク・カルチュラル・ビレッジを訪問。バスで1時間ほど揺られて、見たこともないような絵に描いたようなトンガリ山や熱帯雨林の風景を経て、海岸沿いの文化村に到着。作曲家のナラウィさんの案内で、様々な伝統楽器の展示を見る。ナラウィさんの創作楽器や、Rain Forest World Music Festivalの出演者が残していった楽器なども展示されている。サペは、かつては男性用と女性用で形状が違ったとのこと。インドネシアのバンドゥンから来た竹琴が面白い。半音階なのに黒鍵と白鍵に分かれていない。これを片岡さんとアナンでデュオの即興をしてもらう。

その後、イバンの音楽の演奏の披露の後、サペ+カホンアコーディオンエレキベースでの演奏の披露がある。サペもアンプにつないでいるので、エレキギターで普通のバンドのような響き。その後、一緒に演奏しましょうと誘われて、セッションを始めようとすると、「上を向いて歩こう」を演奏し始めてくれた。日本だから日本の曲を演奏するのは、意味としては相手と交流になるのだけれども、目の前にいる人と言葉や意味を介さずに楽器の音でコミュニケートしようとする時に、言葉や意味は邪魔になる。ぼくは、その音楽から坂本九や日本や色々な意味を取り除き音で何かを伝えるべく、鍵ハモを吹きながらサペの演奏の間近まで近づいていく。気付くと、アナンやスボウォさんも演奏に加わり、元永さんが尺八を吹いていて、竹澤さんはガムランのボナンのような楽器を鳴らすなど、全員が演奏に参加していた。ぼくはペットボトルを鳴らした。国際交流は簡単なようで難しい。

その後、芸能ショーの会場に移動し、様々な民族音楽と舞踊を鑑賞。最後に舞台上にあがって一緒に踊りましょうコーナーに舞台上のダンサー達と一緒になって踊った。舞台上で踊っているスボウォさんの踊りが凄まじく、一人を異彩を放つ。結局、スボウォさんの踊りに触発されて、ぼくも踊った。

大雨があがって、インタビューの後、少しだけ文化村の中を散歩。遠くで鳥の鳴き声がする。風の音がする。耳を開くと、周りの音が入ってくる。一人、そっと鍵ハモを吹いてみた。ただ周りの声を聴いて、それに密かに応えるように。頭で意味を考えるより、まず世界の音を聴くこと。それから全てが始まる。

気がつくとスボウォさんが取材を受けていた。作曲には2種類ある。1つは、世界に耳を傾け周りの声を聴き、それに応答する作曲。もう一つは、論理やコンセプトで作曲する。自分は前者だ、とスボウォさん。ぼくも同感だった。世界と対話し、世界に呼応する、そういう音楽がしたい。そのために、自分の頭の中で設計した論理、意味に囚われずに、もう一度、耳を世界に開きたい。熱帯雨林のジャングルの中で耳を開くと、世界はいっぱい応えてくれるのだから、というのが、今日の教訓。その気持ちを大切に明日を過ごしたいと思った。