野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

京阪46駅、完走いたしました。

今年の最後の演奏会でした。会場には、定員100名を超えるお客様にお集りいただき、入場無料なので、途中から、駅の待合室に迷い込んだように、ふらっと立ち寄ったまま最後まで聴いて行かれる方もおられました。特に、3時間のコンサートを全駅お聴き頂いた方々は、本当に長い旅を同行いただき、ありがとうございました。

「京阪46駅の音楽」。尾引浩志さん、竹澤悦子さんの演奏は、本当に素晴らしかったです。ありがとうございました。また、スタッフの皆さん、スタッフでありながら、共演者のような立ち位置の方々もおられました。ありがとうございました。調律の上野さんは、前日から調律作業を開始していただき、本番に臨んでいただいたとのこと。本当に感謝です。そんな皆さんのお力があって、46曲の新曲を、全て無事に演奏し切ることもできました。新作初演46曲というのは、たとえ小品ばかりとは言え、大きなチャレンジでした。

46曲も作曲し、46曲も演奏しなければいけなかったことでの発見もたくさんありました。46曲を作るため、それぞれの曲の作曲に長い時間をかけられなかったので、できるだけこねくり回さず、第一印象を大切に、素直に作りました。そして、それぞれのアイディアを発展させる時に、46の違ったテイストになるように、現在の自分の技術や方法を散りばめました。

20曲程度だったら、今の自分の引き出しで、演じ分け、それなりに聴かせられてしまいますが、46曲も演奏すると、20曲前の曲と、ここの部分が十分に演じ分けられていないのではないか?ちょっと、同じような方法で、もっと表現力があったら、明確に違えるのではないか、などと気付かされます。例えば、5曲目にやった「六道珍皇寺」という曲で、地獄に堕ちて行くシーンの混沌とした感じと、28曲目にやった「茨田堤」で神が怒って水害が起こる時の混沌の感じは、本当に、十分に音で演じ分けられていたでしょうか?など。自分なりに表現の課題を、いくつも気付かさせられるきっかけにもなりました。大変でしたが、46駅やって良かったです。

46のアイディアの種は、全て11月のワークショップで出たものでした。そうしたアイディアは、本当に些細なものです。あの場にいた人々の中で、ぼく以外の人には、今日のコンサートなど到底想像もつかなかったと思います。植物の小さな種を見て、それが大きく成長して花を咲かせたり数々の実がなるなど、植物を育てたことがない人には、到底想像がつかないのと同じことです。作曲するとは、そういうことです。作品をつくるとは、そういうことです。いつも、最初のきっかけは些細なことだったりします。でも、些細な種に、未来がつまっています。小さな種を持ち帰って育てると、今日のコンサートになります。そのことを、ワークショップに参加した方々が非常に喜んで下さったのが、嬉しかったです。小さな種は小さな種だと、捨ててしまうのではなく、大切に育てると、あとが楽しいです。世界に絶望したり悲観すると、無力感を感じることもあります。でも、小さな小さな種を蒔いて、それを丁寧に育てていくと、何かが少しだけ変わっていく、という実感を持つ。そんな体験を、大阪でできたのは、本当に本当に嬉しいことでした。

あと、上演して気付いたのは、一駅ずつに詳細な時刻表を作って、演奏したので、時刻表を守って運行している鉄道会社の方々の苦労を、音楽会を通して体験することができました。本当に、「ただいま、この列車は5分ほど遅れて運行いたしております。お急ぎのところ、申し訳ございません。」という気分で、少しでもダイヤを回復させようと、時間を守りながらの演奏会になりまして、それも初体験で面白かったです。竹澤さんは、箏でも三味線でも、本当に素晴らしい表現力で、もっともっと長く演奏していたかったのですが、、、。そして、尾引さんの音は、悠久の時間が流れ、本当に永遠に聴いていたい時間ではあったのですが、、、。今度は、一曲20分くらいのコンサートをしましょう。