野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

写真から作曲する〜ドキュメンタリー・オペラ「復興ダンゴ」

1日から3日まで3日間は正月気分だったのですが、4日、5日と砂連尾理(ダンス)と上田謙太郎(映像)との濃密な2日間が入ってしまい、すっかり創作モードになってしまいました。2月18日、19日の公演に向けて、一気に作品の全貌が形になってきております。

昨年3月の震災を経て、6月にインドネシアで企画書を書きました。その時は、まだ具体的な作品のイメージなどありませんでした。ただ、こんなことがやりたい、という漠然とした気持ちだけがありました。

老人ホーム・REMIX #2
ドキュメンタリー・オペラ「復興」(仮称)
企 画 書

2011年6月25日
さくら苑プロジェクト実行委員会

 私(野村誠)は、コラボレーションと現代性を主軸に据えて、活動を展開してきた作曲家です。これまでに、音楽家のみならず、子ども、お年寄り、ダンサー、俳優、動物、などと、様々なコラボレーションを行い、数々の作品を発表してきました。今回、本助成を得て発表する作品は、映像とピアノから構成される新しいオペラ「老人ホーム・REMIX #2」です。
 作品のテーマは、復興です。第2次世界大戦後の日本の復興を体験したお年寄りの体験に基づきながら、2011年3月11日に東日本で起こった大震災からの復興と日本の未来について語り合い、そこから浮き彫りになる言葉を映像で紡ぎ、言葉と音楽と映像から構成される新しい形式のオペラとして、提示します。
ワークショップの会場になるのは、「特別養護老人ホーム さくら苑」〈以下、「さくら苑」〉です。私は1999年以来、12年間に渡り、さくら苑のお年寄り達と共同作曲ワークショップを続けて参りました。その成果は、『老人ホームに音楽がひびく〜作曲家になったお年寄り』(晶文社、大沢久子との共著、添付資料を参照)や、新聞、雑誌、テレビなど様々なメディアで話題となりましたし、2009年度には、本助成を受けて「老人ホーム・REMIX #1」を発表し、これまで報道されがちであった、福祉・医療的な側面ではなく、お年寄りとの共同作曲の芸術性の側面を、大きく提示することができました。
しかし、さくら苑のワークショップの中では、私が主眼を置いてきた音楽の創造的体験以外に、数限りないお年寄りの豊かな体験談に接することができます。また、かつてあった美しき日本語にも接することができます。明治、大正、そして、昭和の戦争を体験されたお年寄りの言葉をドキュメントし、芸術作品として残したい、という気持ちが沸き起こりました。特に、東日本大震災を経験している今、お年寄りの言葉から生きる勇気や希望、さらには未来への可能性を見つけられるオペラを創作し、横浜から世界に発信したいと私は考えます。日本の未来、世界の未来のために、今、芸術家として何ができるか、私なりに考えた末に導き出した結論がこのプロジェクトです。芸術の力と芸術の可能性を信じているからこそ、今、私はこの作品を発表しなければいけない、と強く感じています。

そして、その時、写真家の杉本文さんや、振付家の砂連尾理さんが、どんな形で関わるのか、全く未定でしたが、何か関わって一緒に作品を作りたい、と名前を企画書に参加アーティストとして列記しました。

さて、本日は、杉本さんから送られた8点の写真から、ピアノ曲の作曲に取り組んでおりました。そして、この8点の写真を順に曲にしようと、ピアノに向かっているうちに、この8点の写真は、一つの物語になっていることに、改めて気づき、公演のイメージがさらに明確に見えてきました。そして、写真は投影し、写真の切り替えは、まるで合奏するように、ピアノと息を合わせて展開していくのです。これは、アンサンブルなのだ、と瞬時にイメージが沸きました。公演の冒頭から最後までの全部のシーンが、一気に全て見えました。ああ、あの時に企画書に書いていたことは、こういうことだったのか、と思いました。


公演詳細は、こちら
http://sakuraen.blogspot.com/

そして、今日は、8点の写真のための音楽をスケッチしておりました。意味のある言葉がだんだん溶けていき、体験が体感になり、理念が感情になっていきます。「復興ダンゴ」がドンドン転がり始めております。