野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

驚くべき学びの世界

ワタリウム美術館で7月まで開催されていた「驚くべき学びの世界展」は、イタリアのレッジョ・エミリアの幼児教育の最新事情や現在進行形のプロジェクトを紹介する展覧会(だったらしい)。

で、その関連企画として、本日、子どものワークショップと、ワークショップをする大人のための講座を各2回、計4回しました。午前10時にスタートして、夕方6時まで、1日4コマというフル稼働でした。

10:00−10:30 大人への説明会1
10:30−11:30 子どもへのワークショップ1(大人は見学)
12:00−13:30 大人への講座1
14:30−15:00 大人への説明会2
15:00−16:00 子どもへのワークショップ2(大人は見学)
16:30−18:00 大人への講座2

子どもとのワークショップを大人が見学して、講座でそのことを検証するという形式を求められていました。子どもとのワークショップは、一切プランせず、行き当たりばったりでやることを決めて臨みました。

子どもというのも、2歳〜11歳と年齢の幅がある子どもが10人程度のワークショップでした。それを40〜50人程度の大人が見学するという状況で、この状況自体がなかなか稀有な体験でした。ま、普通に考えて、やりにくい状況なので、無理ですと言って、条件を変えてもらってもいいくらいなのですが、つい引き受けてみました。始まってみて、予想通り困難なので、ドキドキしました。

でも、そういう困難な状況から始まるから、色々、野村誠もフル稼働の即興で一日を過ごすことができて、良い体験をさせてもらいました。

午前のワークショップでは、気まずい状況で、子どもたちから、こういうのイヤ、ああいうのイヤ、という言葉が聞て、じゃあ、どんな音楽したいの、と聞いたら、「大人がイヤフォンで聞いているようなの」という言葉に辿り着いた。で、40人の大人がいるから、10人くらいはイヤフォンで聞ける音楽を持ち歩いているので、実際に子どもにそうした音楽を聞かせてもらった。そんな一対一の音楽鑑賞から、場が変化していくのが特に面白かったです。最終的にレジ袋の音を楽しんでいるところから発展して、レジ袋でドッジボールをすることに。10人の子どもが40人の大人と対戦。両チームの境界線には、楽器を一列に並べる。ドッジボールが進行する中、でも、楽器をやってしまう子どももいる、走ったり踊ったりしたい子どももいる。複数の居場所がある不思議なドッジボールの場が形成されました。

午後は、「海の音を持って来た」とコーンフレイクの箱を持って来た子どもがいました。これが、多分、家では大きなコーンフレイクの箱で、レインスティックのように波の音が出たのでしょうが、持ち運びが便利という理由で、小さい箱を持って来ちゃったのです。聞かせてくれた後、自ら「あんまり海の音に似てない」と却下。そこで、その音は何の音に似てるか、と40人の大人も含めて、みんなで考える。すると、コーンフレイクの箱の音を聞いて、色んなアイディアが出るのです。そんなことだけで20分近く続けるのに、それでも、まだまだ想像力は枯渇せず、アイディアは出続ける。コーンフレイクの箱が海の音じゃなくなっただけで、「雪を歩く音」や「かき氷を削る音」や「お母さんに怒られて引っ叩かれる音」や「リュックを背負って縄跳びをする音」や「打ち上げ花火の音」や「運動会のピストルの音」など、無限の可能性を持つことを体験して、何度も何度もコーンフレイクの音に耳を傾ける贅沢な時間。そんな渋いところから出発して、最後には、40人の大人がいつの間にか観客になって、ロックバンドのライブのようになってしまい、ステージ(椅子の上)で熱演。

こんな二つの行き当たりばったりのワークショップの可能性や魅力について、大人たちとディスカッションや検証をする場が持てました。共感した人、衝撃を受けた人、もやっとした人、色んな人がきっといると思うけど、それぞれの感じた気持ちと今日の体験を大切にしていけば、それぞれの未来にきっとつながっていく、そんな時間だったと思います。貴重な体験ができました。ぼくもこの感覚を大切に生きていきます。皆さん、どうもありがとうございました。