野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

新しい伝統音楽 その2

 ラハユ・スパンガ(Rahayu Supanggah)さんの講演会を聞きに行きました。クロノス・カルテットピーター・ブルックともコラボレートをしていて、国際的に活躍しているガムランの作曲家。例によって、インドネシア語なので、話の内容は一部分しか分かりませんが、西洋音楽をベースとする近代音楽や現代音楽とは一線を画する「NEW MUSIC INDONESIA」という概念を掲げ、インドネシアの伝統に根ざしながら、新しい作品を創造してきた、という話です。インドネシアの音楽自体は、19世紀末〜20世紀初頭にかけての西洋近代音楽に大きな影響を与えたり(ドビュッシー)、1960年代には、ミニマルミュージックに影響を与えたり、また20世紀末には、ワールド・ミュージックなどにも大きな影響を与えました。まだまだ、インドネシアの伝統音楽の中に潜在する可能性がたくさんある。などなど、お話が続いたのですが、概論が多くって、スパンガさんの作品そのものについてのお話はありませんでした。
 終わった後、スパンガさんに、講演は面白かったのですが、あなたの音楽について、もっとお話を聞きたかったのですが、、、と言うと、笑顔で、ご自身のCDをプレゼントしてくれました。今日の講演で使おうと思って持って来ていたのでしょう。でも、一曲もかけることがなかったCD。帰って聞いてみると、これが非常に面白いのです。
 近年、海外で舞台や映画などでスパンガさんが音楽を担当する時、演出家や監督が、ジャワ的な伝統的な香りを求めれば、それなりに要求に応えながら美しい音楽を創作しているのではないか、と想像します。でも、このCDに入っている楽曲を聞くと、ぼくは、より彼の音楽に共感できました。彼は、新しいインドネシア音楽をどうやって創るか、という問いに、常に向き合い試行錯誤をしていて、その中に、独特な歪みがあったり、濁りがあったり、うねりがあったりするのです。
 それにしても、ヨーロッパにいると、大友良英さんや細川俊夫さんなどの名前を聞きますが、インドネシアでは、大友さんや細川さんの名前が、誰かの口にあがったことを聞いたことがありません。逆に、高橋悠治さんの名前は、よく口にあがります。スパンガさんも、高橋悠治さん、土取利行さんの名前をあげておられました。土取さんは面識がありませんが、いつかお会いしたいな、と思いました。