野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ラストセッション

 いよいよ明朝、ジョグジャを出発します。ここ数日、吉森くんとクロンチョンやダンドゥットなどインドネシアのポップスを聞いたり、CDを購入したり、出発の準備をするなどして過ごしてきました。濃厚な日々を共に過ごした吉森夫妻も昨夜日本に帰って行きました。妻も芸大の先生方に挨拶に行ったりして、いよいよ帰国の気分です。
 昨日、今日は、本当に多くの人々と会いました。インドネシアのことを色々教えてもらった影絵研究者のユウさんも訪ねて来てくれました。また、ウェリー君、ギギー君という二人の若い音楽家も訪ねて来て、最後のセッションをしました。ウェリー君は伝統音楽学科を卒業したばかりの作曲家/ガムラン奏者で、ぼくの鍵ハモと彼のグンデルで、思う存分の即興演奏を楽しみました。デュオで演奏してみて、彼のポテンシャルの高さを改めて実感しました。繊細でセンスの良いグンデルの演奏と鍵ハモの絡みを堪能しました。その後、ギギー君、やぶさんも加わり、4人でセッションをすると、今度は、非常にエネルギッシュな即興演奏になり、ウェリー君はバリ風なパッセージをガンバンで演奏したり、やぶさんは、留学中に出したくても出せなかったクンダン(太鼓)の音が、このセッションで突然出せるようになりました。未来を予感させるセッションでした。 
 ウェリー君が練習があるので帰った後、ギギー君と鍵ハモデュオのセッションをしました。半年間続けてきた鍵ハモのデュオの最終回です。ギギー君は「この1年、マコトさんと本当に多くの音楽体験をしました。本当にありがとう。将来、日本に行きます。」と涙を流しました。若干20歳のギギー君は、ジョグジャの鍵盤ハーモニカの第1人者として、真にインドネシアの現代音楽を切り開いていくことでしょう。
 その後、オランダ文化会館に、ダンサーのミロトが参加しているダンスの練習を見学に行きました。「テアトル・ガラシ」という劇団のメンバー2人と、エコさんというソロのダンサーとミロトが、オランダ人の振付家ストラヴィンスキーの「兵士の物語」に振りつけた作品を練習していました。ジャワ人ばかりで演じているダンス作品ですが、ロシア人作曲家の音楽でオランダ人の振付なので、伝統的な動きは少ないコンテンポラリーな作品で、楽しく見ました。場所と交流し、自然と対話する舞踊をするジャワの達人が、こうした西洋的なパッケージに入れられていることに、何かが足りない気がするぼくは、この半年で随分とジャワ文化に染まったな、と思います。
 家に戻ると、マングナン小学校のダルー先生、ガムラン留学中のヒカリさん、中学校の音楽教師のパルチアント、ピアニストのアンジェラ、俳優のアレハンドラ、舞踊留学中のマミさん、作曲家のスボウォさんが、次々に訪ねて来てくれ、最後の挨拶など。ぼくは、皆さんに言葉や物では伝えきれない感謝を伝えるべく、気がつくと、鍵ハモを手にとって、演奏しました。静かに耳を傾けて、身体で聞いてくれました。
 一人ずつと最後のお別れをした後、ヒカリさん、マミさん、やぶさんと4人で、災害を収めるためのモチョパットの翻訳をしました。3月に100行のうちの50行を訳しました。本日は20行を訳しました。帰国までに全部訳したかったのですが、残りの30行は宿題になりました。マミさんが日本に戻った時に、残りの30行を訳して、完結させようと約束しました。
 ジョグジャの皆さん、本当にありがとうございます。この半年で、本当に貴重な体験をさせていただきました。この体験は、ぼくの財産です。