野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

カジュアル現代音楽

6月20日の鍵盤ハーモニカトリオのコンサートに向けて、リハーサル。

まずは、世界初演の3曲を練習。

朴さんの新曲。これが、なかなか面白い。鍵盤に10本の指を置いたら、その位置で固定なのですが、前半は、3人が同じリズムで同じ指使いで演奏するのです。だから、10本の指を同じような形で置いてしまうと、どの音も同じ音域で密集した和音になりますし、10本の指の置き方が、もう少し揃っていないと、音域の密集しない和音になります。今日は37鍵の楽器を使いましたが、この曲こそ、44鍵の楽器を使ってみようと思いました。

朴守賢 「カジュアル火曜日」 
せっかく野村誠氏からいただいた委嘱なので、普段とは違う作曲の仕方をしようと思いました。しかし、ある意味この曲は普段の作曲の仕方をそのまま映し出しているかもしれません。というのも、作曲の前には、鍵盤の前で何を弾くわけでもなく、システムがあるわけでもなく、両手でデタラメを弾いて戯れながら、音に探りを入れていくことが多く、今回はそんなカジュアルに戯れるシーンを小品として組み立てることになったからです。鍵盤ハーモニカに両手いっぱいかぶせて無作為に十指で押さえた音を、3台それぞれのデタラメセリーとして、毎回新しい音楽が生まれるように仕掛けました。しかし、無作為といっても、作曲者側で完全に音高への責任を放棄したわけではありません。当然、小さな鍵盤ハーモニカに両手をかぶせればある程度の各指の音域は大体決まってきます。しかしながら、3人の奏者の30の指と鍵盤数(鍵盤ハーモニカによって違います)の組み合わせを考えると、とてつもない組み合わせ数になります。たとえ似通っているようでも毎回全然違うわけです。先週の火曜日と今週の火曜日のように。せっかくなので、機会があれば他の曜日も作ってみようと思います。

Soe Tjen Marchingの「MELON」は、6連符や7連符などが複雑に出てくる複雑な曲ですが、他のパートとの関係などを丁寧に分析しながら演奏していくと、だいぶ、輪郭ができてきました。でも、まだまだ、曲の全貌が見えないので、一度、演奏を録音して聴いてみました。すると、やっていると分からないのですが、なかなか面白い曲なのだ、ということが分かってきました。

Soe Tjen Marching 「MELON」

The piece consists of 4 main notes with varieties of articulations, dynamics and colour. The three melodicas form a poliphony treated vertically as well as horizontally.


橋本知久さんの新曲は、シンプルですが、タンギングのオスティナートが、非常に効果的です。

橋本知久『新しい人のためのファンファーレ』 (2010)
Fanfare for the New People (2010) / Tomohisa Hashimoto

メロディカというのは、どこにも属さないような、逆に言えば幅の広い表情を持っている。
オルガンのようなコードの響き、トランペットの華やかさ、オーボエの郷愁などなど。
その機動性の魅力もさることながら、そんなハイブリッドで変幻自在な楽器が
ファンファーレという儀式的で古典的な様式に新しいイメージを加えてくれた。

以前は、超難曲だった橋本裕樹「Super Sonic」も、何度も演奏することで、スムーズに演奏できるようになってきました。

橋本裕樹 「Super Sonic」 
私も鍵盤ハーモニカを演奏しているのだが、鍵ハモで演奏活動をしていると話すと、鍵ハモに対して稚拙なイメージを抱く人々がいる。鍵ハモと小学校がセットになって記憶されているのだろう。野村さんから鍵ハモトリオの依頼があった時、そのようなイメージを一度に払拭できるような、かっこいい曲にしたいと思った。跳ねたり、走ったり、音がものすごいスピードで歌っているような。結果できた曲は、大変に難しい曲になってしまったのだけれど、鍵ハモのかっこよさは表現できたのではないかと思う。