野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

鍵盤ハーモニカトリオの個人練習

鍵盤ハーモニカトリオの新曲の譜面が、2曲、別々に届きました。一つが、朴守賢さんの「カジュアル火曜日」もう一つが、橋本知久さんの「新しい人のためのファンファーレ」、ということで、6月20日のコンサートでは、Soe Tjen Marchingの「MELON」も含めて、3曲世界初演があります。

鍵盤ハーモニカトリオの委嘱は、なぜやっているか、というと、理由がいくつもあるのですが、個人的には、

1)鍵盤ハーモニカの可能性を拡げていきたい
2)現代を生きる魅力的な作曲家の音楽を紹介していきたい

の二つがあるからです。

朴さんの新作は、指使いとリズムや強弱、アーティキュレーションなどは、決まっているのですが、その指をどの鍵盤に置くかは、演奏者の自由な曲です。これが、なかなかカッコいい曲になりそうです。解説は、こちら

朴守賢 「カジュアル火曜日」 
せっかく野村誠氏からいただいた委嘱なので、普段とは違う作曲の仕方をしようと思いました。しかし、ある意味この曲は普段の作曲の仕方をそのまま映し出しているかもしれません。というのも、作曲の前には、鍵盤の前で何を弾くわけでもなく、システムがあるわけでもなく、両手でデタラメを弾いて戯れながら、音に探りを入れていくことが多く、今回はそんなカジュアルに戯れるシーンを小品として組み立てることになったからです。鍵盤ハーモニカに両手いっぱいかぶせて無作為に十指で押さえた音を、3台それぞれのデタラメセリーとして、毎回新しい音楽が生まれるように仕掛けました。しかし、無作為といっても、作曲者側で完全に音高への責任を放棄したわけではありません。当然、小さな鍵盤ハーモニカに両手をかぶせればある程度の各指の音域は大体決まってきます。しかしながら、3人の奏者の30の指と鍵盤数(鍵盤ハーモニカによって違います)の組み合わせを考えると、とてつもない組み合わせ数になります。たとえ似通っているようでも毎回全然違うわけです。先週の火曜日と今週の火曜日のように。せっかくなので、機会があれば他の曜日も作ってみようと思います。

朴さんの充実のホームページは、こちら。注目の作曲家です。
http://www.parksoohyun.net/

朴作品は、



などあり、また、路上演奏もされているようで、

橋本知久さんの新曲の解説は、こちら。橋本さんはオランダのハーグ在住。身体性の強い作品が多く、作曲から逸脱して、振付もされています。

橋本知久『新しい人のためのファンファーレ』 (2010)
Fanfare for the New People (2010) / Tomohisa Hashimoto

メロディカというのは、どこにも属さないような、逆に言えば幅の広い表情を持っている。
オルガンのようなコードの響き、トランペットの華やかさ、オーボエの郷愁などなど。
その機動性の魅力もさることながら、そんなハイブリッドで変幻自在な楽器が
ファンファーレという儀式的で古典的な様式に新しいイメージを加えてくれた。


カールさんの曲の解説は、こちら

Carl Bergstroem-Nielsen 「Versnaperingen」
Versnaperingen was commissioned by Makoto Nomura for a concert with 3 melodicas
featuring a number of 3 minute pieces. It was conceived of as a kind of “pause signal”
– because I usually think in longer developments. This was an occasion to compose
somehting relatively simple and short. - Versnaperingen is a Flemish word used for
various small godies. Literally, the word means “for snatching”.

もう一人の橋本さんの曲目解説は、こちらです。

橋本裕樹 「Super Sonic」 
私も鍵盤ハーモニカを演奏しているのだが、鍵ハモで演奏活動をしていると話すと、鍵ハモに対して稚拙なイメージを抱く人々がいる。鍵ハモと小学校がセットになって記憶されているのだろう。野村さんから鍵ハモトリオの依頼があった時、そのようなイメージを一度に払拭できるような、かっこいい曲にしたいと思った。跳ねたり、走ったり、音がものすごいスピードで歌っているような。結果できた曲は、大変に難しい曲になってしまったのだけれど、鍵ハモのかっこよさは表現できたのではないかと思う。


加藤千晴さんの作品の解説はこれ。

加藤千晴:「金魚町のどくだみ〜ラストテーマ」(1999/2009)

1999年に上演された同名の演劇の最後のシーンに流れた音楽で、学生時代に影響を受けた作曲家、芦川聡へのオマージュにもなっています。このシーンは提灯で作った金魚がフワフワと揺れています。元はサスティンペダル踏みっぱなしのピアノでしたが鍵ハモにはその機能がないためこんな形になりました。

そして、打楽器も加えた近藤さんの作品の解説がこれ!

近藤浩平 「ピクニック組曲」 
組曲といえば有名なのはホルストの「惑星」である。「ピクニック組曲」の構成は「惑星」に少し似ている。
第1曲:食べ物を持って集合
誰が一番美味しいものを持ってくるかの闘いである。
第2曲:潮干狩り
干潟にはすばしこい生き物がいる。水の惑星である。
第3曲:水辺のゴイサギ
うちの近所の弁天池の夕景は美しく、宵の明星が六甲山の上にでる。稀にゴイサギが動いて水音がする。
第4曲:Very very sleepyの歌
全曲中最も印象的な旋律である。しかし、この部分だけを抜粋しての演奏は望ましくない。
第5曲:気障な蘊蓄野郎
酒や食べ物について語る自称魔術師。
第6曲:牛の音楽
永遠の反芻(はんすう)。

渡邉達弘さんの解説はこれです。

渡邉達弘『野菜スープの作り方』

この曲は2007年に作曲した僕にとって初めての鍵盤ハーモニカの楽曲です。港区地域生活支援センター(あいはーと・みなと)で行われた「あいはーと音楽会」で赤羽美希・正木恵子・渡邉達弘の3人によって初演されました。
「○○食べない?」「え、××食べようよ。」「なら□□を作ろう!」というような何気ない会話にヒントを得て、そこに妄想をプラスして作った曲です。野菜スープの作り方にまつわる楽曲ではありません。妄想の世界で野菜スープを作ることになったのでそう名づけました。

アンドリュー・メルヴィンの作品はこれ

Andrew Melvin 「TORIO」
Torio was written in the summer of 2009. On repeating the word ‘trio’ in its Japanese pronunciation ‘to-ri-o’, I heard a distinct musical shape of three points, the second point being higher than the first and third. The whole of the piece is based on the musical shape of this word as well as its constituent semantic associations.

アンドリューはケンブリッジ大学で作曲を学んだ作曲家で、もともと非常にアカデミックな現代音楽から出発しているのですが,その後、即興と作曲の実験についてPeter Wiegoldに師事し、日本に留学し近藤譲に師事し、最近は、こんなバンドも始めています。