野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

飛び石がもうすぐ生まれる

新聞の取材が終って、シアタートラムに。
ちょうどいいところに来た、とジョン・チームにつかまり、みんな楽屋で演じながら、全シーンの音楽の確認などをやっていく。かなりいい感じになってきました。
なんでも、ぼくが来る前には、みんなで散々即興をやったり、一騒動あって、みんなで本音ディスカッションがあったり、いろいろあって、一段落着いたところで、ぼくが来たそうです。

ぼくは今回はコーディネーターで、出演者でも演出家でもない立場なので、特にやれることもそんなにあるわけではないのですが、何と言うか、みんなを見守っているとか、野次を飛ばしたり、応援したり、くらいはできます。

あと、ジョンが盛んに言っていること、「みんなを信頼しているから」と言っている意味が、出演者に伝わっているかが気になったので、「多分、みんなを信頼している、って言ってるのは、みんなの感性を信頼しているっていう意味だから、本番でステージ上で、アドリブで何かがしたくなったとき、やっていいと思うよ。」と言った上で、ジョンにも再度確認してみました。今日のゲネプロでは、みんながアドリブも自然で、いい感じでした。

ゲネプロが始まる直前に、吉野さつきちゃんが、さっとぼくの隣りにやって来て、座りました。なんか、それだけで泣きたくなっちゃった。飛び石プロジェクトは、数年かけて、さつきちゃんと一緒に育ててきたプロジェクトです。何にもないところから立ち上げて、数々の苦難を乗り越えて、ここまで来た。

当初、エイブルアート・オンステージのプロジェクトでは、毎年海外の障害者劇団を招聘することになっていましたが、1年目にジョンが芸術監督をしているFull Body & The Voiceを招聘したのをきっかけに、2年目からは海外の障害者劇団の演出家を日本に呼んで、日本で作品を滞在制作してみたい、と大きくプランを変更しました。しかも、ジェニーは身体障害の人だけと作品を作り、ジョンは知的障害の人だけと作品を作っているのに、飛び石プロジェクトでは、彼らがイギリスでもやっていない、障害のある人ない人、という分け方を無効にするようなメンバー構成で舞台づくりに取り組んできました。

その結果、メンバー間でコミュニケーションをとるのに、いろいろな障害が出てきます。イギリス人だと日本語理解できないという障害もあります。耳が聴こえないという障害もあります。逆に、手話が分からないという障害もあります。誰かが障害者で誰かが健常者と考えるのではなく、それぞれに違ったコミュニケーションの仕方があり、その間に、様々な障害がある。そして、コミュニケートするのに難しい環境の中、作品をどうやって作っていくのか?作品づくりは、コミュニケーションのワークショップでもあり、コミュニケーションそのものについて考えることにもなっていきます。

飛び石は、さつきちゃんとぼくとで長い時間をかけてきた子どものよう。まさに、生まれる瞬間を迎えているような、そんな気持ちです。だから、さつきちゃんがゲネの時に、ぼくの隣りにすっとやって来たことに、泣きそうになった。後で話したら、さつきちゃんも同じような気持ちだったらしい。

それにしても、さつきちゃんのこの飛び石プロジェクトでの仕事は、素晴らしいです。本当に感謝です。

ジョンチームが、今までの中で格段に良かった。みんな今日はすごく楽しんでやったらしい。ステージは、すごくSpontaneousな感じでした。そこで何かが生まれている感じ。本当に、言葉を越えた何かが、そこにあわくじわーっと滲み出ていました。

ジェニー・チームの「血の婚礼」も、日本語、英語、日本語手話、英語手話と言語が混在しているのに、お互いが打ち消しあわずに、見事に成立していること。そして、俳優たちの自信を持った演技とエネルギーが、いい方向に向かっていると確信。

明日の稽古では、ジョンチームは、通しをしません。何かアホなことをやろう(something silly)とジョンが言っていました。本番前に、みんなでアホなことして遊びます。そして、いよいよ明日が初演です。

ぼくができることは、あとはみんなを信じて、見守ること。奇跡が立ち現れる瞬間に立ち会います。

明日から3日間、チケットは完売。当日、若干立見席が当日券で販売されるかもしれませんが。