野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

オランウータンとの一日

今日は、久しぶりに動物園に行きました。よこはま動物園「ズーラシア」です。オランウータンは、相当賢いらしいし、道具も使うので、いろいろ音楽をしないか、という試みの第1回目です。

飼育係の宮川さん、教育普及担当の長倉かすみさんと、オランウータンのロビンのところへ。宮川さんが、「檻をバンバン叩くかもしれませんが、びっくりしないでくださいね」とのこと。そうは言われても、びっくりするでしょう。ロビンは、前回の鍵ハモ演奏を聴いてもらったときも、相当シャイで、興味があるから出てくるけど、視線は合わせず、わざと顔を背けて座っていました。今日は、裏から入って、檻のすぐ前で出会ったので、ちょっとびっくりしたのか、檻をガンガン叩きました。これが、すごい音がするのです。扉を開けられたりするため、若干動くので、叩くと金属の檻が鳴り響くのです。しかも、そこにカギがぶらさがっていて、そういうのまで音を出す。これは、ぼくのような動物の素人としては、パニックしているのか、興奮しているのか、楽しんでいるのか、分かりません。宮川さんはオランウータン担当なので、きっといろいろ分かるのでしょうが、それでも「どっちなのか、分からないですね」と言っていました。

楽家としては、ロビン自身が楽しめるならば、檻にいろんなものを装着して(ぶらさげて)おけば、プリペアドピアノならぬ、プリペアド檻になり、いろんな音色が楽しめます。関係が成立してくれば、やってみる価値もあるのかもしれません。

あと、ロビンは歯ブラシで遊んでいましたが、歯ブラシで檻をこすったりしているのも、演奏に見えなくもありませんでした。これも、本人が楽しんでいるのかどうかが分かりませんが。歯ブラシという楽器も面白いです。

続いて、もう一頭のオランウータンのジュリーに会いに行きました。ところが、途中でテナガザルに会ってしまったのです。これが、鈴木昭男さんがアナラポスで発声するようなすごい声で鳴くのです。歌手です。鍵盤ハーモニカで似たピッチで演奏すると、平均律の音階とは違うのですが、ペンタトニックくらいの音階構成があって、しかも、パターンがあるのです。どんどん高揚していって、メチャクチャ激しく鳴き始めて、これはまた驚かせちゃって、興奮させて、威嚇行動かパニック行動でも始まったのか、と心配して、宮川さんに質問。これは、普段通りだそうです。いやあ、すごいヴォイスパフォーマーです。きっと、メレディス・モンクもびっくりです。

テナガザルは、ぼくの真ん前の柵に張り付いているので、途中で、わざと場所をずらして、そこで演奏していたら、向こうも場所を移動して、真ん前まで来て、演奏に視線を送りまくりです。テナガザルは、すごく音楽が好きなようです。

なんでも、テナガザルは、群れを作らずに、オス・メスのカップルを作って行動するらしいのです。だから、オスとメスで呼び交わすために鳴くらしく、だから、声がいいんだそうです。恋人と交信するための歌なんですね。

ジュリーのところへ行きました。こちらもシャイですが、興味があるので、やはり視線をずらしながら、こちらをずっと見ています。鍵盤ハーモニカの演奏のあと、ペットボトルを演奏してみました。途中で、ぼくがペットボトルをプレゼントするために投げ入れたら、拾い上げたので演奏するのか、と思ったら、そのまま大切そうにペットボトルを隠しに行って、また戻ってきました。宮川さんによると、オランウータンは、観察して、じっくり考えてから行動するので、1週間くらいたったら、こっそり突然ペットボトルを叩き始めるかもしれない、とのことでした。

お昼の後、雨が降ってきたからか、ジュリーは外から中の飼育小屋に移動したのですが、その時に4本のペットボトルを2本を手に持ち、2本を口にくわえて、全部大切そうに運び入れたのだそうです。気に入ってもらえて、うれしい。10日後くらいに演奏し始めるかな?

ジュリーにとプレゼントされているリコーダーがあったらしく、最初に、ぼくが演奏しているところを見せて、それから渡してみました。オランウータンは、なんでも分解して仕組みを確認したがるらしいので、まずは分解するであろう、と予想されていたのですが、本当に、リコーダーをジョイント部分ではずして、ばらばらにして、その後、また組み立てて、それを何度も繰り返していました。また、口には持っていくのですが、吹くことはなく音は出ませんでした。そして、そのうち、口にくわえて、そのうち、噛み砕いてみたりして、また、噛み砕いて変形したリコーダーをまたジョイントさせたりしていました。

その後、ぼくが左手にコカコーラの1.5リットルのペットボトルでリズムを叩き、右手はシェイカーを振りながらビートを刻んで演奏を始めたら、ジュリーは、相当気に入ったみたいで、ずっとぼくの真ん前の柵に顔をぴったりくっつけて、ずっとこちらを見ていました。オランウータンが気に入った音楽が、1曲できました。

ロビンは、相変わらずシャイでした。何度も会っていきながら、関係をつくっていく感じかなぁ。

ということで、継続的に訪ねて、今後の展開を探っていこうと思います。