野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エイブルアート・オンステージのフリーペーパー

京都に戻って来ました。郵便物をチェックすると、エイブルアート・オンステージのフリーペーパー「Abele Art on Stage Project Report 2007」が届いていました。2年半前にスタートしたエイブルアート・オンステージのこの2年半を、ひとまず報告する初めての文字媒体です。A4で26ページしかないので、その一端しか紹介できませんが、それでも、インタビュー記事などを読んでみると、創作の現場が、いかにスリリングだったかということが、容易に想像できるくらい、言葉に力を感じました。

1〜2ページが、平田オリザさん(演出家)の体験談「無限の可能性を追求し芸術性を高める」
3〜4ページが野村誠の「最先端の初心者たち」
5〜6ページが羊屋白玉さん(演出家)インタビュー「羊屋流演出で境界線を漂う」(聞き手野村誠
7〜8ページがエイブルアート・オンステージ・ガムラン実行委員会の「さあトーマス」の報告
9〜10ページは、Dance & People実行委員会の「見えるひと・見えないひと・見えにくいひと・見えすぎるひと」の報告。
11〜12ページは、エイブルアート・オンステージの概説
13〜14ページは過去3年間の全グループの紹介
15〜16ページは、日英共同企画「飛び石プロジェクト」の紹介。
17〜18ページは大友良英さん(音楽家)インタビュー「一人ひとりのキャラがたったビッグバンドになった」(聞き手、細馬宏通さん)
19〜20ページが佐久間新さん(ジャワ舞踊家)インタビュー「素直な感情の発露からくる動きにジャワ舞踊の真髄を見る」(聞き手、細馬宏通さん)
21〜22ページTen Seeds「ユタと不思議な仲間たち」報告
23〜24ページがチャレンジステージ「ファミリーシアター〜演じる側が出向いていく出前公演」報告
25〜26ページが、播磨靖夫さん(エイブル・アート・ジャパン)と殿岡裕章さん(明治安田生命)の対談。

とにかく、読み物として、大変面白いです。ワークショップや作品づくりでの試行錯誤をした軌跡が、少ない紙面の中にひしめいています。フリーペーパーなので、色んな劇場などに置いてあったりするのかな。入手したい人は、エイブル・アート・ジャパンに問い合わせるといいと思います。
http://www.ableart.org/
office@ableart.org

それから、藤浩志さんが関わっているワークショップ知財研究会による「こどものためのワークショップ」も届いていました。

こどものためのワークショップ―その知財はだれのもの?

こどものためのワークショップ―その知財はだれのもの?

この本は、先日の「パクリ学」の本とも関係してくるのですが、ワークショップの著作権について研究しているもののようです。

はえずこホールで「十年音泉」のワークショップをするにあたって、演劇や音楽のワークショップをする度に、そのワークショップの内容を、紙に書いて再現可能な形にして欲しい(いわゆる楽譜化して欲しい)とお願いしました。ぼくのこの依頼はうまく伝わらなかったために、実現しませんでしたが、毎回のワークショップを紙に記して、それが誰の著作であるかを明記して、最終的にそれを全てまとめたものを、ワークショップ作品集として形づくってみようという思惑がありました。最終的にステージで上演された3時間半の舞台は、様々な作品を構成してできているわけで、その様々な作品も、もう少し単純化された様々な作品をアレンジしたものだったりして、もとを正していくと、色々なワークショップのエクササイズのようなものに還元されるはずで、そのプロセス自体を、全て(音楽で言うところの)楽譜化してしまおうと思ったのです。

そして、その楽譜には、最終的なアウトプットにいたる途中のものが残っていて、「十年音泉」上演後も、誰かがワークショップで、8月の倉品さんのワークショップでやったエクササイズを使ったりできるような、そういうものを作りたかった、ことを思い出しました。

それから、吉野さつきさんと話しをしていた時に、単刀直入に聞いたのですね。何が一番やりたいの、って?そしたら、いろいろ答えてくれたのだけど、その中で刑務所でのワークショップの実施とかも、彼女の構想にはあるのですが、「ワークショップのアーカイブを作る」というのがありました。これ、誰かにやって欲しいんですよね。ひとまず、自分自身のワークショップのアーカイブを作っちゃおうと思っています。かなり、色んなことをやってきたので、整理しないと、今まで自分が何をやってきていて、何をやってきていないのか、がはっきりすると思うのです。そして、多くの人にアクセス可能な形で、野村誠ワークショップの全てを公開していきたい。

それから、「ワニバレエ」。あの歌の著作者は誰か?平盛小学校のあの場で、少なくとも野村誠やヒュー・ナンキヴェルや林加奈が歌作りをリードしていたことは確かですが、誰かがあの歌を作ったのではなく、あの場があの歌を作ったのです。

放送でも、作詞・作曲者名に、平盛小学校の子どもたちも加えたかったが、ジャスラック、NHK出版、NHKが全ての作詞・作曲者と契約を結ばないと、放送ができないわけです。結果的に、子どもたちを除いた3人の音楽家とNHK出版とで契約を結びました。子どもたちも作曲に関与しているのに、作曲者としてクレジットしないのか、と気になります。

とにかく、今、ぼくが作っている音楽の多くは、誰か一人が作曲者と特定できるものが、少ないのです。そして、ぼくは、すごく面白い録音をいっぱい持って、それを発表したくてたまらないのですが、それが、たまたまパリの美術館で通りがっかった人と行った即興演奏などなどで、共演者や共作者の名前すら分からない音楽がいっぱいあって、しかし、それをその人たちに許可なく公表することができません。しかし、こうした音楽を実はぼくは公開したい。自分だけが知っているのは、もったいない。そして、許可をもらおうにも、その人物自体が特定できなかったりする。だから、個人で楽しむ録音が山ほどあるのです。

ホールなどでやるワークショップで作品をつくる場合は、その時の録音を10年後にCD化したいなんてなっても、当時のワークショップ参加者に許可をもらうこと自体が困難で、それ自体がパフォーマンスになりそうな感じなので、最近は、何をするにしても先に、未来に何かに使ってもいいですよね、的な覚書にサインをしてもらうなど、するようになってきました。

とかなんとか、色々考えることがあるのですが、まずは、暇を見つけて読んで勉強したいです。