野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

即興×演劇×音楽

俳優の倉品淳子さん、絹川友梨さんが仙南にやって来た。いよいよ、今日から、即興演劇と音楽のコラボの可能性を探る実験の日々が始まる。

船迫中学校吹奏楽部とのワークショップ。
楽器のキーノイズのカタカタという音を出したら、次の瞬間に絹川さんが「カタカタ虫がいる」と言って、「カタカタ虫」にまつわる即興劇が始まった。そうやっていく中で、子どもたちが、カタカタいうだけの音で、様々な感情を表現したところが面白かった。そのうち、カタカタ王国の国歌をぼくの指揮に合わせてキーノイズだけで演奏。続いて、倉品さんの演技に合わせて、カタカタ虫のラブソングをやった。ただ、カタカタいう音なのに、ラブソングと国歌では全く違う表情の音楽になっていた。すごいじゃん、中学生。

カタカタ音をさせる時の指の動きは本当にデタラメだったりする。じゃあ、これで息を吹き込んでみて、とお願いした。息を吹き込めば、まるでフリージャズみたいに、音がハチャメチャに速く動くかもしれない。息を吹き込みながらのカタカタは、フリージャズそのものではないけど、かなりフリーで奔放な音になった。これを二人の演技に合わせてやる。どんどん演技が展開していく。面白い。

続いて、フルートとテューバという違ったキャラというのをやった。フルートが演奏するのに合わせて絹川さんが喋り、テューバが演奏するのに合わせて倉品さんが喋る。カウベルの音に合わせて、フルート→テューバテューバ→フルート、と入れ替わるルール。これ、メチャクチャ面白い。芝居があることで楽器が演技しているような演奏になるし、音があることでメロディーを奏でているような芝居になる。ホルンVSバスクラリネットというのもやった。

それから、マウスピースだけの音をやった。トランペットのマウスピースで喋るように吹いてもらって、それを倉品さんが通訳し、絹川さんがインタビュアーという設定。このマウスピースの演奏は、本当に演技だった。

続いて、リード楽器のリードだけの音を不平を訴える村人の声にして、ユーフォニウムテューバのマウスピースを村長の声として、代理人がそれぞれの言葉を通訳していくような芝居も面白かった。とにかく、音楽の世界が広がるのだ。これもあり、あれもあり。

かなり、音楽と演劇のどちらでもあり、どちらでもないもの、に出会えた実感。

倉品さんは、役者としての身体性や役者としての存在感、役者の本能で直感することをやっているところが、スゴイ。絹川さんは、逆にそうした存在感を作らずに、現実と虚構の微妙な境界線を意識的・無意識的に移動する。そこがスゴイ。どこまでが絹川さんで、今からある役になった、という差が極めて小さく、予告なく訪れる。現実世界こそが即興であり、現実はつねにフィクションに隣接しているんだ、と思った。