野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン4幕初演

いよいよホエールトーン・オペラ本番の日。朝10時に集合。まだ、できていない結婚式の歌を作るところから始める。ここまで、全て英語の歌なので、日本語の歌を作ることにする。愛、結婚式、花嫁・花婿、お幸せにの5つの言葉を使うことにした。「おしあわせに!」という言葉を覚えるのが難しいみたいで、何度か言っていたら、最後の「に」のところで、キャロルが膝(=ニー=knee)を叩きながら、ニーと言う。金曜日に来た時は、この人仕切り過ぎ、歌も今一つと感じたけれど、だんだん場に馴染んで持ち味を出して来たように思う。今では、すっかりクリエイティブな関わりが増えたし、押し付けがましくないし、歌も力強い。金曜日に心配して損した。
午前中は、全部のシーンを順番に試し、細かい立ち位置や次の場面との繋がり方を決めていく。各自、コスチュームもつけて、本番の雰囲気に近づいてくる。最後の結婚式の歌がうまく歌えないので、ぼくが指揮者になることにした。フランク(ヒューの息子)が、牧師はいないの?と主張するので、ぼくが牧師役になることにした。指揮者で牧師なので、そこは燕尾服風の衣装に着替えることにした。
午後は照明つきの通し稽古。いわゆるゲネプロゲネプロというのは、エネルギーを使わずに、段取りを確認しつつ、適当に失敗しておく場。一度、失敗しておくと、本番で失敗しないから、ゲネのうちに失敗しておけばいい。本番に向けて、各シーンのチェックをした後、「本番中も、新しいことを探究し、創る気持ちで臨みたいし、みんなにもそうでいて欲しい。リハーサルをなぞるのは止めて、その時間を楽しもう。」とぼくが言って、解散。
コンサートの前半についての打ち合わせ。ゲストミュージシャンの紹介、即興セッション。そのことを説明したら、チャールズが、「もし、みんなが嫌でなければ、ザウルスを入れて即興したい。ぼくとマコトとカナとザウルスとかで、どうだろう?昨日、休憩時間にマコトとカナと即興している時にザウルスが入ってきて面白かった。」と提案してきた。彼女がいわゆるプロっぽい演奏ではないからこそ、即興が面白くなる、ということをチャールズは言ったのだ。他のアーティスト達は、最初、チャールズの言っている意味が分からなかったかもしれない。ぼくは、即座に納得。チャールズは、ぼくと似た考え方をする人だと改めて思った。
4時、ハダスフィールド大学の学生が来た。10人。つい1週間前に入学して、この10人はこんな現場を体験できるなんて、すごいことだと思う。指揮の即興をやることにした。ただ、前と同じことをやるだけではつまらないので、新しいルールを付け加えようと提案。5は「カバ」という声で合唱することにし、合図で全員が寝てしまうことにした。これで4幕の冒頭(カバが寝ている)につながる。
さて、いよいよ本番。ハダスフィールド大学の演劇学科の劇場が完成して初めての公演。客席の定員(80人)を超えてお客さんがいっぱい。予約のない人が入れるかどうかで、ちょっと時間がかかったが、無事に全員客席に入って開始。
まずは、ピートの即興だが、ヒューが間違えてキャロルと紹介。ピートは左手でアコーディオン、右手でトランペットを吹きながら一人ジャズバンドをする。これもある意味、ワンマンバンドだ。ピートは、友達のいない人だったね、きっと。だから、コミュニティ・ミュージックのセンターができて、色んな人と共演できて嬉しいだろうね。続いて、キャロル。「ピートではありません」と言いながら入場して、即興歌唱。力強い。続いてチャールズ。いきなり、ドラムではなく、金属のポールを叩きだした。すごくカッコよかった。その後、ドラムのソロも。
それから、ピート、キャロル、チャールズ、ヒュー、カナ、ぼくの6人での即興。ぼくは、水の3?入っていたペットボトルを3箱投げ入れた。そこから展開した即興は、かなり面白かった。カナちゃんがここ数カ月でかなり実力がアップしたというか、このゲストミュージシャンと演奏しても存在感が負けていない。というか、それ以上の存在感を出していた。
続いて、カナ+ザウルス+チャールズ+野村の即興。最初、静かに始まった後、チャールズのアイディアでザウルスが飛び入り。客席の背後や、ステージの背後のカーテンの中を走り回る。まるでトムとジェリーのジェリー。チャールズ曰く、サーカスのようだった!これは、口では説明できないけど、とんでもなく面白い生きた時間の即興演奏で、途中で、ぼくがドラム、チャールズがピアノになる場面もあったし、カナとザウルスが、お互いに「アホ」と日本語で言い合って退場した後に、ぼくが英訳したところもあり、音楽も短いスパンで素早くブレイクしては展開。チャールズは、もの凄く反応のいい演奏をする。とにかく、大成功。それに続いて、ヒュー+ピート+キャロルの美しい即興、そして大学生との演奏があって、休憩。とにかく、大成功。

休憩後、いよいよ第4幕初演。この内容に関しては、いずれホエールトーン・オペラのウェブにアップされる予定。大成功でした。全幕上演が、本当に楽しみになってきた。ヒューと4幕、一緒にやらせてもらって、本当にいい体験だった。彼の色んなやり方を随分と吸収させてもらった。ぼく自身は、ホエールトーン・オペラ以前は、声楽の音楽をほとんどやったことがなく、ほとんどインストものだったから、本当にいい経験だった。参加した皆さん、サポートしてくれた皆さん、本当にありがとう。