野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

閉館30分前の音楽/肥後琵琶と相撲

高松市美術館の開館・閉館の音楽をつくっている。この音楽の作り方としては、3月3日に開催したサヌカイト体験ワークショップの録音音源と、3月3日のコンサート本番の録音音源をベースにし(そこに少しだけピアノを重ねて)、現在編集中。

 

本日は、16:30に流す放送で、展示室への入室は16:30までで17時には閉館する、というアナウンスの音楽で、ワークショップでのサヌカイトの素朴な演奏と、コンサートでのサヌカイトの演奏が、バーチャルに共演している響きの中で、アナウンスが告げられる感じ。なんとか完成。

 

熊本大学名誉教授の安田宗生先生の『肥後の琵琶師』を読み始めていて、少しずつ肥後琵琶についての理解をし始めている。九州地方に、天台宗の宗教儀礼に琵琶を用いる盲僧が多くいた。今から350年前に、盲僧琵琶と座頭琵琶の争いがあり、幕府が盲僧に宗教行為でない琵琶語りを禁じてしまう。そこで、熊本藩主細川家が京都より岩船(船橋)検校を招き、古浄瑠璃を盲僧たちに伝授してもらい、盲僧たちは座頭琵琶の流れを組むものとなり、宗教行為でない琵琶語りができるようになった、という話。

 

ここで面白いのが、当道座以外に琵琶語りを禁じているのが1674年で、ついつい相撲の歴史と比較して読んでしまう。辻相撲の禁令も1648年に出ていて、その後も1665年、1687年、1690年などに禁令が出ている。江戸において勧進相撲が許可されたのが1684年。

www.miyaishoten.co.jp

 

 

 

 

ディディエ・ガラスの一人芝居/閉館30分前の音楽

秋に一緒に日本国内でツアーを予定しているDidier Galasとオンラインで話す。フランスのモンペリエに住んでいる演出家/俳優。10年ほど前に、彼の《ことばのはじまり》を鳥取、京都、三重、東京などで上演し、パリやマルセイユで彼と公演をしたりワークショップもした。久しぶりにディディエとのコラボレーションは楽しみ。

 

《ことばのはじまり》は、哲学を題材にした子ども向けのノンバーバルな演劇だった。今回は、フランスの哲学者アラン・バディウの戯曲による一人芝居。テーマは、植民地主義レイシズムで、今こういうことにディディエと一緒に取り組めることを本当に嬉しく思うし、大切なテーマだと思う。

 

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でも小難しいわけではなく、ユーモアも多く、仮面をつけて演じる。一人の俳優(ディディエ)と一人の音楽家(野村)だけでなるシンプルな舞台作品らしい。ディディエはコンセプトを説明するだけでなく、その場で実演しながらやってくれて、既に面白い。

 

本日は、高松市美術館の開館・閉館の音楽のうち、閉館30分前に放送する音源の編集をしていた。開館のアナウンスは、ワークショップ参加者全員で「おはようございます」、「ごゆっくり」などを言ってもらっていたが、閉館30分前には、こうした言葉がないので、違った特色を出すべく、3月3日のコンサートで《おむすび山の磬の祈り》を演奏した際、導入として加藤綾子さん、臼杵美智代さんと行なったサヌカイトの即興演奏の音源を少しトッピングすることに。違った味わいが膨らむ。

 

高松市美術館 開館の音楽

昨日初稿を送った《高松市美術館 開館の音楽》、美術館の牧野さんからのフィードバックを参考に、細かい編集作業を続ける。ワークショップの参加者の方々が鳴らしたサヌカイトが下手に聞こえてしまいそうなところに、色々音を重ねて、そう聞こえないようにしていたのだが、そこまでワークショップ参加者の表現をケアしすぎなくてもいいかな、とも思えてきて、とにかくある音源を最大限生かして、必要な音源をつくる、と割り切って編集作業を続ける。そうしていく中で、また新たに思いつくこともあり、第2稿ができあがる。

 

 

 

 

高松市美術館/毎日新聞/ピアノ音楽史

高松市美術館の開館の音楽の編集作業が続いている。微妙な調整が続いているが、これ以上の作業は蛇足になりそうなところにきたので、一度、ここで完了として初稿を高松市美術館の牧野さんに送る。美術館の空間やスピーカーなどで聞いて、言葉が聞き取れるかどうかが、一番の不安材料(場所によっては、相当響く空間もあるはず)。

 

と音源を仕上げて送ったら、入れ替わるように毎日新聞の記事のお知らせ。ワークショップのこと、コンサートのこと、開館閉館の音楽のこと、丁寧に取り上げていただき、ありがたい。

mainichi.jp

 

その後は、休日の里村さんと買い物に出かけたり、カフェでも語り合う。熊本市現代美術館での仕事が2年目となる里村さん、現代美術館でできることについて、色々考えを巡らせているようで、話を聞くのは楽しい。こちらは、コントラバスの新作と肥後琵琶がどう関連するか、というようなことを話している。

 

『すぐわかる!4コマピアノ音楽史 ピアノの誕生〜古典派編』読了。軽く読める本に見えるのに、ちゃんと調べられて内容が充実しているので、読み応えがあり勉強になる。

 

www.ymm.co.jp

 

 

 

 

開館の音楽/ケンハモの奏法

熊本は桜も終わりかけ。しかし、ここのところ雨が多い。今日も雨が降った。今年も花見はしなかった。

 

相変わらず、高松市美術館の開館の音楽をやっていて、だいぶ完成には近づいてきてはいる。サヌカイトの音、声、ピアノの音でできている。サヌカイトと声はワークショップで録音したもの。美術館の館内の色々な場所で流れるので、響く場所もあるだろうし、響かない場所もあるだろうけど、言葉が聞き取れるかなぁ、というのが一番の懸念。最大限、聞き取りやすく整音しよう。

 

琵琶を練習するのに触発されて、鍵盤ハーモニカも練習する時間が増えていて、今日はケンハモの新奏法を編み出した。こうやって毎日触っていると、何かしら発見がある。

 

 

今、この時/パープルリボン作曲賞/サヌカイト

だじゃ研のメンバーを紹介するインタビューが続々と公開になっているが、新倉壮朗さんの回が公開に。

aaasenju.wixsite.com

 

新倉壮朗くんの映画第2弾ができ、予告編が公開になった。予告編に野村も少し登場している。

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第2回パープルリボン作曲賞の情報が公開になったと草柳和之さんから連絡がある。ぼくも審査員をする。

www5e.biglobe.ne.jp

それに向けて、今年の11月18日には、パープルリボンコンサートも開催され、そこで第1回の受賞作品や、野村誠作曲/草柳和之作詞《DV撲滅ソングーDVカルタを歌にした》も演奏されるようだ。

www5e.biglobe.ne.jp

 

サヌカイトの音源編集、焦らずに進めている。ワークショップの方々の演奏、やっていることは単純なのだけど、味わい深い。それが一歩間違うと単に素人の下手な演奏に聞こえてしまうので、味わいを生かし絶妙に聞こる線を探る。

肥後琵琶を学ぶ(3回目)

肥後琵琶のお稽古3回目。琵琶を入手してから1ヶ月経った。前回同様、岩下小太郎さんと後藤昭子さんのお宅へ伺う。5月12日に鹿児島で薩摩琵琶の演奏会があるので、一緒に行かないかとお誘いを受ける。肥後琵琶は今年で350周年なのだが、演奏者が数名しかいないため、筑前琵琶や薩摩琵琶と連携をはかっている。薩摩琵琶の話の流れで、作曲家の原田敬子さんのお名前が出て、こんなところで原田さんのお名前を聞くとはびっくりしたが、原田さんは薩摩琵琶の調査をかなりされているようだった。確かに、ぼくが執筆した数回前の『五線紙のパンセ』のエッセイで書かれておられる。

mercuredesarts.com

 

10月に予定している350周年記念のコンサートに向けての準備の話し合いが続く。気がつくと、琵琶をめぐる研究者の方の話、東京から石田琵琶店の方をお招きし琵琶の作り方を教わった話、玉川流の最後の琵琶法師と言われる山鹿良之さんを追ったドキュメンタリー映画の話など、琵琶の世界の専門的な話から世間話までが延々と繰り広げられる。お二人は、色々な琵琶をお持ちで、小太郎さんの笹琵琶と呼ばれる細くて軽い楽器を弾かせていただく。ウクレレのような琵琶。こういう楽器もあるのだ。

 

後藤さんが40年近く前に山鹿さんから教わっていた頃の貴重なレッスンを録音したカセットを聴かせていただく。山鹿さんが琵琶を弾き語るのに合わせて若き後藤さんが一緒に歌っている録音。浪曲に近い歌い方で、琵琶の手が独特。調絃の狂わせ方がアヴァンギャルドロックのようでもあり、しかもリズムがカッコいい。語りの合間に挿入される琵琶の手が3+3+2のリズムになっている。録音を聞いた後、この3+3+2のリズムについて質問をする。すると、後藤さんが「じゃん、とぅるるー」のところかと、実演してくださる。「じゃん、とぅるるー」と山鹿さんが教えてくださったのかと聞くと、山鹿さんはただ演奏するだけで、それを後藤さんが自身でそのように覚えたのだ、と言う。後藤流の口三味線ならぬ口琵琶も貴重。ぼくが後藤さんの口琵琶から真似て演奏をしていると、小太郎さんが星沢流の上田義視さんの場合の琵琶の手を教えてくださり、突然、楽器のレッスンへと移行する。

 

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今日も結局、4時間以上、後藤さんのお宅でお話を聞いたり、琵琶を奏でたりする濃厚な一日だった。