野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

きたまり小町風伝/マイアミ

京都の大江能楽堂にて、きたまりダンス公演『小町風伝』を鑑賞。夢なのか現なのか、フィクションなのかリアルなのか。その境界を蠢くソロダンスと多数の音楽家による公演。2022年に解体された慣れ親しんだ家を懐かしむ『棲家』を上演した直後に、きたまり自身が札幌に移住してしまった彼女が小野小町として回想するダンスは、自身の人生を回想し、彼女のダンス史が織り込まれているようでもあった。

 

『小町風伝』は、『棲家』と似ている。老人が過去を回想するという構造はそっくりで、台詞が言葉からダンスに翻訳された時点で、物語はより抽象化されるので、二作品の類似性が強調されて、そこも面白かった。

 

尺八、三線、歌、馬頭琴、太棹の演奏家たちが、様々なテクスチュアの音を響かせていて、次々に豊かな音楽が聴けて贅沢な音楽に対峙する孤高のソロダンス2時間を目一杯堪能した。

 

途中で、太田省吾の戯曲の言葉が、娘に説教する言葉が、スピーカーから流れてくる。謙虚でいいのか、みたいなことをスピーカーは言った。うむ、謙虚もいいが、謙虚じゃないのもいい。ぼくは、ふと『棲家』の通し稽古のことを思い出す。ダンスの由良部正美さんとぼくに対して、いい人すぎる、どうして、そんなに私のやりたいことを汲み取ろうとし過ぎるのか?ときたまりが言った。とても良い言葉だ。

 

スピーカーから流れる太田省吾の書いたであろう台詞が、彼女自身の言葉のようにも感じ、彼女自身も含めた色々なところに向けられているとも感じた。色々な声が聞けてしまうきたまり。いい人の鎧を脱ぎ、ダンスシーンや周囲の願いを汲み取ることを卒業する。周囲が多彩に何を奏でようと、自身のダンスの道を進んでいくのだ。

 

ぼく自身、自分の演奏の強度をしっかり磨いていき、彼女のダンスとぶつかり合う日を楽しみにしたい、と思った。

 

夜は、マイアミくんとの新プロジェクトのミーティング。美味しくご飯を食べて、温泉に入って暖まり、夜ふかしせずに早く寝た。続きは明朝。