野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

サヌカイトと仏教音楽と百石讃嘆などなど

高松市美術館35周年記念コンサートに向けて、サヌカイトとヴァイオリンとピアノのための三重奏曲を作曲中。サヌカイトとは、讃岐の石を楽器にしたもので、石琴とかLithophoneと呼ばれたりもする。今日も一日楽譜を書いているうちに、色々新しいイメージも浮かび上がってくる。

 

久しぶりにベトナムのこの演奏の動画も見てみる。

www.youtube.com

 

今回、故・宮脇磬子さんが制作のサヌカイトを使わせていただき、宮脇さんとも親交の深かった臼杵美智代さんに演奏していただく。宮脇磬子さんの名前でネットで検索すると、2001年に東京玉翠会(高松高校の同窓会らしい)のプログラムに以下のような文章が出てくる。

 

声明の権威だった父は、この石を和音の五音、佛教音楽の十二声に配して、おそらく世界でも始めて石の調律楽器「石琴」を創作した。

https://www.gyokusui.com/program/19kai-program.pdf

 

つまり、宮脇さんのお父さんの長尾猛さんは、仏教音楽の五音(ごいん)=「宮、商、角、徴、羽」と12律=「壱越、断金、平調、勝絶、下無、双調、 鳧鐘、黄鐘、鸞鏡、盤渉、神仙、上無」に当てはめて、楽器を調律された。おそらくピタゴラス音律と呼ばれる響きで石と石が共鳴し合うよう調律されたに違いない。

 

一方、娘の宮脇磬子さんは、サヌカイトを西洋音楽を演奏する楽器として、お父さんとは別の方向に展開された。楽器も、西洋近代音楽の十二平均律に調律されていっただろう。

 

他方、臼杵美智代さんは、サヌカイトのCDのタイトルを『縄文への伝言』と名付け、また香川県出身の音楽家でサヌカイト演奏にも取り組んでおられる土取利行さんは、『縄文の音』という本も書かれている。

 

1万年前の縄文の音、1300年前に中国から伝来した音、150年前に西洋から伝来した音という3つの層をそれぞれ感じながら、先駆者たちがサヌカイトという石琴に取り組んできた。そして、音楽の「未来」を作曲するという野村誠が、サヌカイトの未来をどう考えているのか、と問われている。温故知新であるので、こうした先達の足跡に耳を傾けながら、自分の新しい足跡を残していきたい。

 

今日は仏教音楽の勉強からだなぁ、と手元にあった声明の本を開くと、『百石讃嘆』という曲の話が出てきた。よくよく読むと、百石は量の話であると気づくのだが、このタイトルに讃岐の「讃」という文字が入っているので、気になってしまう。『百石讃嘆』は天平6年(734年)に作られたらしい。734年は畿内七道地震という大震災が起こった年で、宮廷で相撲の儀式(相撲節会)が記録上初めて行われた年だ。そして、その翌年には、遣唐使吉備真備が方響(石の楽器)を持ち帰ったとの記録もあるようで、1290年前の734年が気になりながら、作曲を続けている。