野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

『人情芸術祭 表現街』にて新曲《吉田武司》世界初演

アートアクセスあだち『音まち千住の縁』ディレクターの吉田武司さんが長年あたためてきた企画『人情芸術祭 表現街』にゲスト出演する。今日の本番で良いパフォーマンスをするために最高のランチで準備したいと思い、ラザッパに行く。

 

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あまりにも久しぶりに行ったので忘れられてるかと思いきや、入るなり「お久しぶりです」と声をかけられ、あたたかく迎え入れてもらい、しかも、最高の美味しさだったので、これで今日の本番は大丈夫と思えるほどの充電が完了。

 

食後、本町商店街を歩き、『人情芸術祭 表現街』をめぐる。商店街のあちらこちらで、パフォーマンスなどが繰り広げられている。今日1日で60組以上の出演者が出る。一見すると商店街全体を使った大道芸フェスティバルのようにも見えるが、実はそうではない。路上でのパフォーマンスは、様々なノイズに埋もれないように、分かりやすく強度のあるものになりがちだ。しかし、一見してカテゴライズできない演目、雑踏の音にかき消されそうな地味な演目など、路上に向きとは思えない演目が、あちこちで同時多発していて、ステージらしい設えもないし、大型のスピーカーやマイクなどもない。だから、観客の側が「鑑賞する」という態度を示すことで、そこに舞台があることに気づく。そんな双方向性の交流が数々あるようなフラットなステージが商店街の路上を中心に、近くのお寺のお庭や芸大の前のスペースなどに出現していた。だから、出演者だけでなく、観客や通行人まで含めて描かれる風景そのものが『人情芸術祭 表現街』という感じがして、とても良い企画だと感じた。また、3年近くコロナで人と対面で交流することが制限されてきた今、まるで長い冬の間に土の中で準備していた表現の種が、突然、大量に芽を出したような感じがして嬉しくなった。

 

さて、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)約20名との出演は16:00から。

 

1 ケロリン

2 吉田武司(新曲、世界初演

3 ボロボロボレロ+ワンダフル

4 Aokidさんとのセッション(新倉壮朗も飛び入り)

5 お客さんに貝を配ってのフリーセッション

6 表現貝

7 観客も混ざり合ってのフリーセッション

 

こんなプログラムになった。だじゃ研でビッグバンド的な楽曲の演奏もよかった。Aokidさんとのセッションも、スリリングかつ展開も読めずに瞬間瞬間が生きていた。思った以上に多くの観客が貝殻を演奏し、狂乱のセッションにも加わってくれた。手応え十分の本番だった。

 

2016年のインドネシアツアーの際、ジャティノムという田舎にメメットに連れて行ってもらい、そこのコミュニティの人たちとメメットが築き上げていた音楽に出会わせてもらった。その時に、最後には狂乱のセッションになった。こちらの動画の36:40あたりからのその時のセッションの様子が見られる。こんな狂乱のセッションが、千住の街中で見てみたいというディレクターの熱い思いが実ったのか、今日の最後も、誰が出演者で誰が観客だかわからない、狂乱のセッションとなった。

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コマーシャルに成功する音楽を作りたかったら、観客に消費してもらう音楽をつくる必要がある。売れる商品をつくる必要がある。でも、市民が参加して社会を変えていくとか、世界を主体的に変えていくんだ、という思いを音で伝えるんだったら、観客は消費者じゃない。観客は仲間であり、観客は共犯者であり、観客は共演者である。観客は共創のパートナーである。だから、舞台と客席の見えない境界なんて、壊れた方がいい。コロナで非接触型で密にならず交流せずに、と推奨されてきた。コロナのガイドラインが少し緩やかになり、久しぶりに、フラットな場で少しだけ境界が揺らぎ、交流が起こった。自分で自分をパッケージして商品になってる場合じゃない。接触と非接触の境界線をギリギリで行き来しながらも、お互いを刺激し合いながら、今を生きているぼくたちの文化を作っていく。ぼくたちのムーブメントを作っていく。消えそうな火をを消さずに、灯し続けていく。勇気づけられる1日だった。

 

吉田くん、おめでとう。熊倉さん、長尾さん、石橋くん、屋宜さん、遠藤くん、、、、、、事務局のみんな、カツカレーさま&ありがとう。だじゃ研のみんな、素晴らしいパフォーマンスありがとう。ゲストのAokidさん、飛び入りしてくれたTASKE、大井卓也さん、ありがとう!!!