野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ラヴ・トレイン、たった一つの実在を求めて

相変わらず、福岡市美術館の美術作品を楽譜と見立てて、作曲中。かつては、絵を楽譜として解釈するワークショップなんて、ありがちで、興味なかった。なんか結果が予想できる気がするし、こういうのは、やっている人いろいろいるし、ぼくの仕事じゃないと思っていた。ところが、偶然、イギリスのブラックプールのギャラリーでのワークショップで時間が余ったので、余った時間に何がやりたいか参加者に聞いたら、絵を楽譜として演奏してみたい、と言う。で、やってみたら、面白く、その後、美術館で機会があったら、これをしている。

 

何が面白いのか、なのだが、「絵を音楽で表現する」だったら、そんなに面白くならないかもしれない。絵を楽譜だと思って見るのがポイント。そう思って見ると、絵の見方が急に変になる。そして、その絵を楽譜だと解釈した通りの音楽は、やはり、ちょっと変な音楽になる。その楽譜通りに忠実に演奏すればするほど、変になる。そりゃそうだ、そもそも、それらの美術作品は楽譜じゃないのだから。

 

こうしたワークショップでは、即興演奏や他の方法で音楽をする時よりも、参加者の人々が、より自由に発想したり、思いもかけない音楽を生み出したりして、ぼくは何度も驚かされた。だから、お気に入りのワークショップになって、何度やっても飽きない。

 

今週は、ワークショップではなく、野村が個人で、福岡市美術館の作品をピアノ曲にしている。昨日書いた「Nessi Has Company II」の譜面を少し書き直した後、昨日スケッチした「言葉は海へ」の譜面を書く。その後、サラ・ルーカスの「ラヴ・トレイン」というインスタレーションピアノ曲にする。つぶした空き缶がいっぱいあるので、この空き缶を音符だと思って、解釈する。さらに、人物の写真がいくつもあるので、今度はこれを音符だと思って、演奏してみる。ラヴ・トレインというタイトルにも触発されて、ノリのよい曲に。

 

その後は、吉田博の木版画「帆船」に着手。これは、帆船の帆が海に映っているので、上下が対称になる。ピアノの右手のト音記号の音符が、線対称で左手のヘ音記号に映されたら、帆船の音楽になるかと思って、ずっとそうしたパズルのようなことをしていた。ピアノで弾くと、右手と左手がシンメトリーになる。

 

つづいて、田部光子の「たった一つの実在を求めて」という作品。隅の方に、数字があうのだが、よく見ると、12 34 56 89 00 が連続していて、7がない。ところが、さらに良く見ると、1箇所だけ7がある。ああ、これが「たった一つの実在」なのか。ということで、これらの数字の組み合わせで和音を作って、たった一つの実在の7が1箇所だけ出る音楽を構想する。7つの半音は、完全5度と呼ばれる共和音程。この完全5度が、一度だけ出るのが、面白い。

 

2007年のオーストリアのクレムスでの演奏の動画を、タイのアナン・ナルコンが公開していたことに気づく。久しぶりに見た。高校生とのワークショップや特別支援学校でのワークショップに基づき、最後はコンサートをした。懐かしい。12年も前のことだ。

 

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