野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジークデー村に着く

朝9時にバンコクのホテルをチェックアウトし、2週間後のストリートのフェスティバルの会場である旧市街サンプランを下見。バンコクの中にある伝統的な景色や文化を都市の子どもたちに伝えたいと言う気持ちから始まったらしく、10年続いている。旧市街の建物は緑色だ。

会場下見後、車でバンコクの渋滞を抜け、高速道路を延々と進む。2時間半ほど行く。カオヤイという森林地帯に着く。バンコクの人が別荘を持ったり、観光に訪れる町。日本で言う軽井沢っぽいエリアか。その近くの村に、エイさんの家がある。10年前に、バンコクから移住し、当時は地価も安く、広い敷地に、自分たちで粘度から家を建て、近隣の子どもの図書館になったり、ワークショップスペースになったり。野外ステージや、簡易宿泊所もあり、キャンプ用のテントがいくつもある。全部、自分たちで低予算で、建てたそうだ。庭には、ココナッツやパパイヤなどの果樹があり、とれたてのココナッツジュースをいただく。近所のオーガニック野菜も食卓にのぼるランチ。美味しい。

タムさんがタイ全土で、20以上のコミュニティアートの拠点をつなぐネットワークを持っているのは、話では知っていたが、実際にこうした環境に接するだけで、体感として素晴らしさが理解できる。エイさんに大阪で会った時には、イメージできなかったこと。

その後、再び3時間ほど行き、とうもろこし畑、田園、さとうきび畑などを、延々と通り過ぎていく。スリン県の中でもカンボジア国境近くのジークデー村に着いたのは夕暮れ前。道路の至る所に米が干してあり、車は米をよけて走る。収穫の時期なのだ。2週間ホームステイさせてもらうヨードさんの家に着く。庭に影絵のステージがセットしてあり、太鼓など楽器も並んでいる。子どもが25人ほど集まっていて、ボールあそびをしたりしている。大歓迎ムード。現地に住む日本人のマルさんが二日前に急遽通訳として声がかかったおかげで、通訳もいる。

子どもの作品を展示するギャラリー見学。この地域は、クメール語が母国語の人、ラオ語が母国語、グイ族のグイ語の人がいる。タイ語は第2言語としての公用語になっているのか。国境まで20キロで、両国の国境上に遺跡があったりするらしい。遺跡はうちの国のだ、なんて有名人が発言したりすると、銃撃戦になったりすることもあるらしいが、通常はおだやか。

夕食後、歓迎の演奏会。ジークデー村の子どもが15人、70キロかけて、サムロムから来た子どもが9人。最初に、ソーさんに野村のことを紹介してもらい、続いて、野村の自己紹介で鍵ハモ演奏。子どもたち、大喜びしてくれる。その後、サムロムの子どもがクメールのガントゥルン音楽を演奏。カンボジアの音楽に似ている。ソーという胡弓、太鼓、そして、フィンガーシンバル。シンバルや太鼓は、2小節くらいのパターンを延々と繰り返し、胡弓が装飾音のたくさんのメロディーを奏でる。チャンさんが指導。以前は、学校に教えに行っていたらしいが、予算がつかなくなって、やりたい子どもを募って、自主的に教えているらしい。

ヨードさんとジークデー村の子どもたちによる太鼓、ケーン(笙)、ピン(三絃)などでの演奏。野村も飛び入り鍵ハモでセッションになる。長い太鼓がグロンヤーオ、大きいのがグロンロマナー。小さい太鼓は、名称不明。そこに電子キーボードも一台。ヨンさんは、ケーンもピンもうまい。村には、マホリという別の伝統音楽をやるグループもあるらしい。この地域には、伝統的には影絵はないのだが、影絵自体が少なくなってきていることもあり、ここの村で、子どもたちと影絵をつくって演じるようになった。影絵をする前にはワイクルーというお祈りをする。

明日から毎日、ジークデー村の子どもたちとのコラボレーション。サムロムの子どもたちは遠いので、週末に参加。トラックの荷台に乗って、子どもたちは、覚えたばかりの日本語「またね」を連呼して帰っていった。

寝室に蚊帳をセットした後、また、戸外の木の下で、飲み会。木の上ににわとりがとまっている。稲で笛がつくれるから、子どもたちと笛をつくってみようか、とか。凧で音を出せるから、それも面白いかも、とか、木をくりぬいた鐘がお寺にあるよ、とか、アイディアを色々出してくれる。みんな陽気で、笑いが絶えない。

タムさんとソーさんは、明日、バンコクに戻るらしい。マルさんの通訳は15日までらしい。今のところ、ジークデー村の人は、誰も英語を喋らない。とりあえず、15日までにタイ語を覚えていかないと、16日以降は、大変であるが、みな良い人たちなので、不安ではない。

「かずえつこと 即興のための50のエテュード」no.38「ジークデー村」をクイック作曲。寝室の窓は全開。東に昇るオリオン座が輝き、虫と鳥の鳴き声を子守唄に寝る。