野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

悪は存在しない/ダンスと音楽

里村さんがお休みなので、熊本市内まで映画を見に行く。濱口竜介監督の『悪は存在しない』というもの。映画のテイストが非常に独特だったので、大変印象に残った(以下、個人的な映画の感想なので、どんな映画か気になる方は実際に見てください)。

 

映画を見た直後は言葉にならなかったけど、日記を書きながら言葉にすると、この映画の「人工的」なところが特長だと思う。場面が森の中なので、大自然を感じそうなものだけど、自然がこんなに出てくるのに、見終わった感覚が人工的な機械の世界を感じさせるところが出色。

 

北海道の十勝の芽武で過ごした体験と明らかに違う。日田で広大な杉林の中を歩いた体験とも違う。そもそも鹿は急斜面を駆け上がる。鹿の通り道は急なのに、この映画の世界はフラットなのだ。自然なのに、2次元の壁紙のようなのだ。空気も湧水も美味しそうに見せない。ただ無機的に提示される自然。森の声が聞こえてこない。息苦しさがある。

 

役者の喋り方も人工的だ。様々な出自の人が集うと、方言も語り口も多様になるが、森の中の登場人物たちは、感情を抑えて抑揚を少なく喋る。様式化され記号化された無機的な日本語が独特なテンションを生み出す(都会の登場人物たちは、言葉に感情をのせて話し、迷ったり悩んだりもするが)。

 

そして、突然、血が何度も登場する。しかし、血も人工的なのだ。血は流れないで、ただ記号として存在する。痛みも苦しみも描かれない。このリアリティを感じられない世界観が、この映画が描く切実さだ。逆説的だが、リアリティが感じられないというリアリティ。時々訪れる適度に不協和な弦楽合奏(ぼくが2008年に書いた《アコーディオン協奏曲》の響きを少し思い出した)が、その感覚を一層強めており、音楽の石橋英子さんにも興味を持った。

 

夜は、砂連尾理さん(ダンス)、岩田奈津季さん(ダンス)、加藤綾子さん(ヴァイオリン)とzoomする。千葉県のアーティスト・フォローアップ事業というのに、岩田さんが採択されたらしく、岩田さんが立教大学に在学していた時に砂連尾ゼミだったこともあり、砂連尾さんからご相談いただき、そう言えば加藤さんが振付家に振り付けられてヴァイオリンを弾きたいと言ってたなぁと思い出し、お繋ぎした、という流れ。

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岩田さんと加藤さんで何かする計画で話したけど、そのうち砂連尾さんと野村も飛び入りしても楽しいかも。いっぱい話して後、zoom越しに即興した。ダンスと音は、相性がいいなぁ。