野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

クロスエア

京都の上桂にあるクラシックのホール、バロックザールに出かける。台風とともに梅雨は明けたのか、猛暑です。駅からホールまでの徒歩5分で汗が吹き出る。

大田智美さん+富田珠里さんによるCROSS Airというシリーズ。そもそも、10年前に野村誠作曲の「ウマとの音楽」をドイツで演奏したことをきっかけに、続いています。この10年間に、お二人は、ぼくの曲を何度も何度も演奏し続けて下さり、作曲家としては、有り難い限りなのです。

今回、お二人がゲストに選んだのが、ドイツ在住の箏曲家の菊地奈緒子さん。実は、菊地さんも、野村作品を数多く演奏している演奏家なのですが、菊地さんと大田さん、富田さんが共演するとは、思いもしていなかったので、驚きの組み合わせでした。

ということで、本日、野村の新曲、「六段→交段→空段→穴段の調」が初演になるわけです。リハーサルをホールで聴きまして、日本の音楽でもない、西洋音楽でもない、3つの楽器が非常に対等に共演しているスリリングなアンサンブルと響きに、ぼくは感無量になりました。

予想されたことではありますが、3人の演奏家にとって繋がりの少ない京都という土地での公演であるため、客席は空席も目立ち、もっと多くの人に聴いてもらいたかった、との思いもあります。京都には作曲のコースがある芸大もありますし、もっと作曲家や演奏家の方々にご来場いただけても良いのでは、と思いました。と同時に、名古屋から聴きに来てくれたアコーディオンのキャオ教授や、同じく名古屋からの作曲家の牛島安希子さんなど、遠方からのご来場者もありまして、そこに、電子音楽の有馬寿純さんや、作曲家の近藤浩平さん、ピアニストのyatchiさん、打楽器のやぶくみこさん、フルートの山村ユカリさん、アコーディオニストの松原智美さん、俳優の筒井カズコさん、グラヒックデザイナーのモーリーさんなど、といった顔ぶれが一同に会する場は、ちょっとした芸術フォーラムのようでもありました。

コンサートは、クラシック、日本人作曲家の曲などなど、演奏家が弾いてみたい曲を並べた、という感じのユニークなラインナップでした。その中で、最後の2曲が野村作品という構成でして、じっくり聴かせていただきました。新曲の「六段→交段→空段→穴段の調」は、リハーサルよりも圧倒的に本番の方が緊張感/集中力のある演奏で、途中からの加速が大変スリリングでした。菊地さん曰く「あの曲には宇宙を感じました」とのこと。先日、大田智美さんも、ぼくの別の曲「誰といますか?」について、何と表現してよいのか、宇宙のような物を感じる、と書いて下さっていました。こうしたコメントは、最大限の賛辞として、嬉しく思います。作曲する時には、色々な方法があったり、アプローチがあったり、観念があったり、意味があったりして、そうしたことを経て、音の世界で音楽作品を構築していくわけです。でも、構築した結果としての音が、方法や観念に留まっているのではなく、それらを超えていって、形容しがたい何か、へと昇華していくことこそ、音楽の醍醐味だと思います。そういう意味でも、本日の演奏は、容易に言語化し得ない形容しがたい何かが醸し出される絶妙な緊張感を持った音の宇宙だったのだと思います。そして、こうした体験ができたことを、演奏家の3人にも、そして、八橋検校にも感謝したいと思うのです。


http://crossair.jp/crossair2015/