野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

千住の1010人

「千住の1010人」、無事に終了いたしました。3000人以上の来場者と、1010人以上の演奏者で、全演目、リハよりも本番が圧倒的に良い演奏でした。ぼくの作曲人生にとっては、本当に記念すべき一日になりました。ガムラン曲「踊れ!ベートーヴェン」(1996)は、そもそも大曲で、これは普通は前座的な位置に置く曲じゃないんですが、この曲で幕開けというのも、かなり過激なプログラムでした。

アナンの「スーパー・フィッシャーマン」は、1010人の「ケロリン唱」スタイルのfishermanの声の合唱からスタートして、倉品さんの朗読神田外語大のピパートの演奏も凄く良かったし、アンのタイ舞踊と佐久間さんのジャワ舞踊の遭遇もあり、パムの子守唄から、松澤さんの箏、小川さんの鼓、ガムラン、ガンサデワ、、、、シーン毎に活用できる人材を活用して構成する贅沢な音楽劇。

メメットの曲は、冒頭に譜面にないし、リハーサルでも一度も鳴らなかった法螺貝から始まった(メメットから何の説明もなかった!)さすがインドネシア。本番で変えてくる。アナンは、譜面とは違う即興で、ラナートを演奏。多分、メメットに自由にやってくれと言われたのでしょう。枠組だけの音楽ではなく、ざわざわ感が生まれる。

ぼくの曲の演奏が始まる前に、1010人の人々が、ちくわを吹く練習をしている。もうこの光景が見られただけでも十分。胸一杯。ぼくの曲を始めると、冒頭の「千住宣誓」でのコタロー(担当スタッフ/藝大3年)の言葉が、心にしみる。そして、「足立市場」の大合奏が始まる。ぼくの曲は、ほとんど指揮者なしで進行できる音楽なので、ぼくは自由に泳げる。本番では、できるだけ広い足立市場の中を走り回り、色々な演奏者の皆に顔を見せて、みんなにエールを送る役としての演奏を続けた。校長先生の気分だった。そして、各パートリーダーを信頼しているので、本当にぼくは自由にいられた。アナンやメメットが、各パートリーダーが、池田邦太郎さんが、指揮をしたりして、それぞれが考えて行動している。それは、譜面に書いてある指示書きとは違う解釈もあったりする。でも、そうやって、ぼくのプランとは違うことが起こっている、ということは、この大合奏が生きていて、この音楽が生ものであり、7月11日に書き終えた譜面の音楽から変化して、今の現在形の音楽として、ここにある、ということだ。それを、ぼくは味わっていた。千住リーグの人の美しいキャッチボール。10名ほどの縄跳び。凧が見事に空に昇り、風飛行機が舞った。笑顔があった。青空があった。空だ、ソラだ、solarだ、曾良だ!犬だ!ワンダフルだ。コーダ!

気がつくと、夢中で走って来た「千住の1010人」は終演を迎えていた。終演したと思っていたが、夕暮れの中、瓦を夢中で鳴らしている子ども達がいた。交流する人々がいた。「千住の1010人」は開演したところだったのだ。ぼくやメメットやアナンが千住を去った後、千住で何かが始まる。その序曲を、この演奏会が担っているのだろうなぁ、と思い、暮れていく空を眺めた。

こんな野村の口から出任せのような「千住の1010人」という企画に、本気で関わって下さった皆様、本当に本当にありがとうございました。