野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Patravadi High School Hua Hin

この学校は全寮制のようで、学生達は3食学校で提供される料理を食べる。こちらも、それを食べる以外に選択肢がない。朝食の時間は7時〜9時。7時頃に、学生達が次々に食べた後をねらって、8時半頃に行く。食事をするスペースに向かう道も、テーマパークの中を歩いているような感じで、不思議な彫刻がある。それらは、全てアーティストが作ったものらしい。半野外の食堂で、気持ちよく朝食をとっていると、校長先生のパトラに紹介される。往年の名女優であり、著名な演出家であると紹介されていなくても、この女性の放つオーラは凄いので、ただものでないことは、すぐに分かった。妻曰く、「側にいるだけで病気が治りそうな人」とのこと。何か、とても良い気を放ち続けている。

授業を見学することに。まず、校舎があって教室というイメージではない。公園の中に点在する建物に、それぞれの学びの場があるのだ。ペーちゃんは、タイ舞踊の授業をしていて、なかなかスパルタ。昨日の面白いキャラのペーちゃんはどこに行ったのか、スパルタ先生だ。こうした伝統芸能を中学生にスパルタで教えているのを見ると、なんだか清々しい。


一方、別の建物では、タイの伝統音楽の授業をやっている。

一方、別の建物では、エンちゃんと別の先生がタイ舞踊の授業をしている。ここは、舞台があり、照明設備が完備しており、階段状の客席がある本格的な劇場だ。その舞台上で授業が行われている。腰を低く落として歩くことが、重要らしい。これだけの設備が完備されているということは、と思い、アナンに質問する。「この学校って、授業料はどうなっているの?お金持ちしか入れないのではないの?」すると、アナンの答えは、「いや。入学試験のオーディションを通ったら、授業料が払えない貧乏な家の子どもは奨学金制度があるし、この劇場で働くことで給料をもらうこともできる。それに、パトラは大金持ちだから、授業料が払えないなんてことは、問題じゃないんだ。」という答えが返ってきた。「今、舞台上で教えている先生は、パトラの学校の第一期生で、彼は優れた振付家になった。でも、彼の家は貧乏だったから、奨学金でパトラの学校に通ったんだ。人々は彼のことをパトラの一番弟子と呼ぶよ。」とのこと。

年に一度、全学生で一つの舞台作品を作り、この劇場で公演をする。舞台セットも、衣装も、全部学生達がつくる。照明も音楽も生徒達が担当するが、音楽監督はアナンで、アナンが作曲して、生徒達と一緒に演奏したそうだ。今年も、担当するらしく、今年はオートバイが登場する「ラーマーヤナ」を作る予定だ。ステージ裏を見学させてもらう。様々な材料が豊富にある工房があり、ここで舞台の大道具や小道具も作るとのこと。「昨年は、この学校内にある植物で染めて、衣装を作ったんだ。全て、天然の色で着色した。」

事務所の横にショップがあり、学校で作ったグッズが売っている。生徒達の公演のビデオ、公演のパンフレット、タイ伝統音楽を学ぶための教科書、制服(Tシャツ)、ノートなどなど。せっかくなので、学校公演のDVDを購入し、パトラの公演DVDも購入した。

昼食を食べていると、ガリーが鍵ハモを持って現れ、「鍵ハモのテクニックを教えて欲しい」と言う。簡単に解説して、その場を去ろうと思っていたら、アナンのかつての生徒で、今この学校で音楽を教えているビフォーが鍵ハモを持って現れる。こちらは、スズキのプロ用と2台持ってやって来た。しかも、鍵ハモの鍵盤に、絵が描いてあり、それがセンスがいい。いろいろテクニックを教えると、ビフォーは非常にセンスよく習得していく。彼は面白いミュージシャンに違いない。

ちょっと昼寝をして、4時から、劇場にて、ぼくの映像を見てのレクチャー。6歳くらいの小さい子どもからティーンエイジの子どもまで、たくさん集まった。予定通りに映像を見せようとすると、もの凄い豪雨が来て、劇場の屋根が鳴り響く。方針を変更し、この雨と共演する即興演奏をした。演奏しながら雨に屋根に踊らされ、ぼくは演奏しているのだけれど、激しく踊って、気がつくと、客席のシートに飛び乗り、そのまま観客席の椅子から椅子へと移動し、子ども達と接触していった。ついには、ペーちゃんにも踊ってもらい、ぼくは「雨ー、雨ー」と叫んでいた。その後、「ズーラシアの音楽」の映像や、かつてNHK教育テレビで放送した「あいのて」などを紹介した。映像を紹介する間に、ぼくが英語で話しアナンが通訳をする。しかし、アナンは、ぼくが話した内容をそのままは訳していない。ぼくがNHKなんて言っていないのに、彼の説明からNHKという言葉が聞こえたりする。つまり、勝手に補足したり、自分の意見を差し挟む通訳+解説を行ってくれるのだ。こうなると、わざと説明を短く、シンプルにしてみる。アナンが勝手に水増しして訳す。これも一つのコラボレーション。

夕食後はワークショップ。「せーの」と「1234」という小金井で誕生した2曲をやり、「1234」は、この学校でさらに発展した。この「1234」の演奏で出てきた様々なリズムや動きを組み合わせて構成した曲に、ペーちゃんのソロダンスや、エンちゃんのソロダンスも盛り込み、さらには、ペーちゃんとエンちゃんのデュオも盛り込み、薮さんのダルブッカやビフォーのボイパも加わり、大セッションに。子どもたちは、どんどん狂っていき、狂乱のセッションにパドラは大喜びだった。

記念撮影も終わり、最後にパドラに「この学校は、本当に素晴らしい」と伝え、熱く話し合うと、驚きの事実が分かった。この学校は、アーティストが先生なのだが、ダンサーはダンスを教えるだけではなく、数学を教えたりする。音楽家が音楽を教えるだけでなく、理科を教えたりする。演出家が演劇を教えるだけでなく、英語を教えたりするのだ。えーーっ。ってことは、全科目をアーティストが教えている、ということか。こんな学校、日本にはまだない。世界中でも、タイにしかないかもしれない。とんでもない学校だ。タイの舞台芸術の未来に、この学校が担う役割は、決して少なくないだろう。

この驚くべき学校について、以下のウェブサイトで英語で、色々なことが見れるし、画像も豊富にあります。
http://www.vichuahin.com/
ここで、学校の様子の写真も
http://patravadischool.com/portfolio/