野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

帰国前の最後のコンサート

 ボロブドゥールに住むカトウマミさん、作曲家のスタントさんご夫婦の主催でのイベントに参加。ここは、家であり、劇場であり、お土産物のお店でもあります。不思議なところです。観光地の側であり、大自然の側でもあります。スタントさんのことは、10年以上前に、高橋悠治さんから、噂は聞いていて、興味はあったのですが、どんな音楽家、よく知りませんでした。マミさんは、3月の展覧会で作品を拝見して以来、時々、一緒にご飯を食べたりしながら、いろいろジョグジャのことを教えていただきました。
 さて、イベントは、まず地元のヨサコイを踊る若者の踊りで歓迎された後、では、演奏をお願いします、と言われたけど、すぐに予定変更して、、踊りとコラボレーションで演奏してくれ、と言われて、ぼくが電子ピアノ、吉森くん鍵ハモ、やぶさんダルブッカで演奏を始めると、次々に、村人が入れ替わり踊り、そのうち、竹の楽器を取り出して、みんなが演奏で加わり、スタントさんは、火を準備して、踊りの真ん中に火を燃やし、即興のお祭りのような様相。最後には盆踊りのようにも見えてきたので、「北海盆歌」(8時だよ全員集合のテーマ)にしたら、ジャワ人が踊る盆踊りが、なんとも面白い。30分以上のセッションは、そんな風に終わる。続いて、スタントさんが、ジャズのスタンダードナンバーの譜面を出してきて、これを歌いたいと言い出す。吉森くんがピアノで伴奏すると、スタントさんとマミさんがデュエットで熱唱。なんでもありだ。で、その後、ぼくが鍵ハモでソロ演奏をして、途中で、指を使わずに、お尻や足などで鍵ハモを演奏し始めたら、それに触発されて、スタントさんが、電子ピアノを持続する音色に切り替えて、鍵盤の上に石を置いて、石で演奏を始めた。ぼくもそれに応じて、石でキーボードを演奏。これが、なかなか面白いパフォーマンスになる。
 これで、スタントさんは、「野村とは、言葉がなくても通じ合うんだ」と喜んでくれたようで、みんなでご飯の時間になだれ込む。その後、再度、夜になって、2次会。吉森くんの息づかいの感じられるピアノソロ、その後、ぼくのソロピアノをやる。すると、スタントさんが、「批評家として、コメントしたい」とコメントを入れる。芸術家というのは、高価な服をきちんと着て、美しい声でちゃんと歌う人のことを言うんではないんだ。彼のようなTシャツ着て、決して美しくない変な声で歌って、でも、そこに本当に創造性があって、技術はあるけど、技術だけに頼るのではない。理論を宗教のように信仰するのではなく、理論の後に来る確かに実演がある。こういう人達が、本物の芸術家なのだ、というような熱弁をふるってくれて、彼らこそが、真の親友だ、と言ってくれました。
 その後、吉森晴美さんによるインド舞踊と、やぶ+野村+吉森による演奏には、犬のハナちゃんも集中して鑑賞。アンコールに、「この道」。演奏しながら、それぞれが歩んで来た道を振り返りつつ、インドネシアでの日々を振り返りつつ、そうした思いを編み込みながら、演奏を終える。
 スタントさんは、この辺りの5つの山の村人たちの芸能をコーディネートするような活動をされているらしい。それは、芸能の保存だけに留まらず、それらが融合したり、コミュニティの再生にもなり、創造活動にもなっていて、伝統でありつつコンテンポラリーである、不思議な立ち位置でありながら、神経質に自由を求めていく。その姿勢を、今日の会自体から、そして、わずかに共演した感覚から、感じ取れたことも、今日の大きな収穫でした。そして、インドネシアに24年間もお住まいであり3児の母親であるマミさんの様々な豪快な体験を通して、包容力のある人間性を夜更けまで体験させていただいたことも、本当に大きな収穫でした。