野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

インドネシアの学校教育特集5〜2006年の教育大改革

 今日は、本屋に行って、衝撃を受けました。インドネシアは、とんでもない教育改革をやったようなのです。教科書コーナーで音楽の教科書を見ようと探してみて、まず、びっくり。

小学校の教科書のタイトル「Kreasi Seni budaya dan Keterampilan(文化芸術の創造と技術)」
中学校の教科書のタイトル「Seni Budaya dan Keterampilan(文化芸術と技術)」
高校の教科書のタイトル「Seni Budaya(文化芸術)」

音楽と美術とダンスと演劇が一冊の本になっているのです。文化芸術という括りで、この4つが混在していることが凄いインドネシアらしいと思いました。さらには、伝統舞踊の動きや、ガムラン音楽、バティックなど、インドネシアの伝統が、段階を踏んで、それぞれの学年で徹底して教えられているのです。日本の学校の教科書で、歌舞伎の基本の動きや、能の謡いや、三味線の演奏や、日本舞踊や、日本画や浮世絵のテクニックなどを、徹底して分かりやすく、小1〜高3まで12年かけて習熟できるようになっているなんて、全く想像すらできません。そもそも、日本では、伝統どころか、演劇やダンスを学校の科目として、ほとんど教えていないと言っていいわけで、まして、歌舞伎や能や狂言などを、段階を踏んで教えるなどは、全くありません。あまりに素晴らしいので、全学年買おうと思ったくらいですが、所持金がそれほどなかったので、ひとまず、小5の教科書、中3の教科書、高2の教科書の3冊を購入してみました。
 で、こういう日に限って、中学校の音楽の先生をしているパルチアントが遊びに来てくれたので、質問してみたわけです。これは一体どういうことなのか?と。
 すると、2006年までは、インドネシアも日本のような西洋音楽中心の音楽の授業をやっていたし、そもそも「文化」という授業ではなく、「音楽」とか「美術」とか「舞踊」という授業しかなかったそうです。ところが、当時の文部大臣Bambang Sutipyo氏が、このままではインドネシア伝統芸能がやばい、と危機感を抱き、インドネシア伝統芸能を中心とする芸術カリキュラムに大改革を行ったというのです。大改革です。ぼくは正直、羨ましいと思いました。
 で、今はインドネシア中で、このインドネシア伝統芸能を中心に据えた教育を行っているらしいのです。例えば、中1と中2の2年間は、インドネシアの音楽だけをやるそうで、中3の半年がアジアの音楽、残りの半年に西洋音楽、というのです。でも、自国の音楽を67%、アジアの音楽を16%、西洋の音楽を16%という配分は、もっともだと思うのです。踊りも、中1と中2ではインドネシアの舞踊をやり、中3の半年がアジアの舞踊、残りの半年が西洋の舞踊をやる、というのです。
 これだけ凄い教育改革をした文部大臣というのが、もともとガジャマダ大学の経済学の教授で、その後、経済大臣を経て、文部大臣になったというのです。
 この人が文部大臣になる以前は、中学生はインターネットも使えなかったが、今は、みんなインターネットを使えるそうなんです。インドネシア伝統芸能をみっちりやり、インターネットを使いこなす、こうした教育がインドネシアで始まっています。欧米の教育を視察したり研究する人ももちろん必要とは思いますが、インドネシアの最先端の教育を、誰か視察に来たり研究しに来ませんか?今の日本の学校教育に一番不足していること、日本が見習わないといけないことが、ここにあります。



小学校の5年の舞踊/音楽


小学校の5年の美術



中学3年のアジアの芸能(歌舞伎、タイの民族音楽

高校2年の舞踊


高校2年の美術


なお

インドネシアの学校教育特集1はこちら
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20110513
インドネシアの学校教育特集2はこちら
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20110514
インドネシアの学校教育特集3はこちら
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20110516
インドネシアの学校教育特集4はこちら
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20110518