野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ギギー君の新作初演

 ギギー君の新作が演奏される(チェロ:Jeremia Kimosabe Bukit、ピアノ:Lia Ristiyana Damanik)というので、フランス会館(LIP)でのヴァイオリンとチェロのリサイタルを聴きに行きました。冷房がきいていて、少し寒い。ホールの背後は暗幕が一面下がっていて、これではクラシック的な残響は期待できないけど、そんな些細なことを気にするような雰囲気ではありません。会場は約100席で、満席。作曲家でジョグジャカルタ現代音楽祭のディレクターであるアスモロさんの姿を見かけるので、隣に座ると、間もなく客電が落ち、司会のおばちゃんが出てきて、挨拶が始まりました。7時10分開演。7時開演だから、ほぼ時間通り。
 曲目解説など書いてあるプログラムはなく、ただ、曲目だけが書いてあるプログラム。解説は一曲ごとに演奏者が話してくれます。この辺もインドネシア流。1曲目チェロ+ピアノで、Henry Eccles(1670-1742・イギリス)「ソナタ ト短調」、2曲目ヴァイオリン+ピアノで、F Seitz(1848-1918)「学生のためのヴァイオリン協奏曲」は、クラシック音楽ですが、どちらも聴いたことのない作曲家。インドネシアでは有名な西洋音楽なのでしょうか?演奏者は、芸大で西洋音楽を専攻している演奏家ですが、演奏の技術はあまり高くないので、演奏できる技術に見合ったレパートリーを探しているのかもしれません。
 3曲目は新作で、チェロとヴィブラフォンとピアノ、インドネシアの若い作曲家のJulius Catra Henakin「a Beautiful Morning」。現代音楽ではなく、映画音楽やジャズやクラシックのイディオムがところどころ、出てくる。4曲目は、ヴァイオリンとピアノでPolly Waterfield「Dragon Dance」。
 休憩が始まると、アスモロさんが、一目散に外に出て行くので、どうしたのかと着いて行くと、カフェで注文して、スパゲッティとコーヒーで、突然食事になる。コンサートの休憩時間に食事とは、びっくりです。こっちのコンサートの休憩時間って、長いのかなぁ、と思って質問すると、10分間とのこと。余程おなかが空いていたのでしょうか?
 休憩後は、チェロ独奏で、Mark Summer「Julie O」。ヴァイオリンとピアノでYuki Kajiura(日本人ですね)「Grandpa's Violin」は、映画かアニメのメロディーを覚えて、半ばアドリブで演奏している感じ。こうした演奏が一番のびのびしていて、ヴァイオリンの良さも生きていたように思います。そして、その後が、チェロとピアノでGardika Gigih「The Science Girl」、ギギー君の新作でした。この曲が始まる前に演奏者がアナウンスをしていました。次の曲は静かな音も大切なので、途中で携帯でメールを打ったり、音を出したり、しないで聴いて下さいね、と言った注意事項。そもそも、クラシックのコンサートは静かに聴くのが常識だと思っていましたが、どうもそうではないみたいです。隣に座っていた某作曲家さんも、演奏中にカチカチと携帯でメール書いていたし、、、、。
 で、始まると、今までの曲とは全然違うビートのない調性もあるのかないのか分からない、時間をゆったりととったチェロの独奏から始まり、現代音楽のようでもあり、そうでないようでもある独特なオープニング。その後、ピアノが加わってくると、急にメジャー7の和音などが出てきて、軽音楽な雰囲気を醸し出すのに、突然、ピアノの内部奏法が出てきたりします。インドネシアの上の世代の作曲家は、モダニズムなのですが、彼は完全にポストモダン世代の作曲家と言えるでしょう。様々な様式を消化した上で、音楽を構成していく。なかなか独創的で良かったです。
 ヴァイオリン独奏で、Julius Catra Henakiの作品がもう一曲「Question」。チェロ独奏で、Dimawan Krisnowo adji「Layang-layang」、最後にサン=サーンスの「白鳥」で終わったか、と思いきや、ここで、チェロの人がゲスト3人を招き入れ、カホン、ギター、ヴァイオリン(別の人)が加わった4人バンドが始まりました。で、バンドで演奏するのか、と思ったら、カホンの人は、箸のような細いスティックでチェロの弦やヴァイオリンの弦を叩き始め、ヴァイオリンの人は左手で音程を変え、カホンの人が弦をスティックで叩いて演奏するのから音楽が始まりました。その後、観客の手拍子を要求して、手拍子が出たりする中から、バンド風に曲が始まり、ノリノリに。すると、今度は、ガムテープを出して来て、リズムに合わせて、テープをビリビリ伸ばしていく。あいのてさん的な演奏。その後、アイリッシュみたいになったり、ロックみたいになりながら、チェロがベースのバンドという感じ。ついには、カホン奏者が観客を二グループに分けて、手拍子のリズムアンサンブルを始め、最後は、きめのリズムでカッコよく終わって、客席から拍手大喝采。それと、同時に、ギター以外の3人が退場。で、ステージに一人残ったギターが、実は一人だけ曲の終わりの音が見つけられず、音を必死に探しているという設定で、つたなく弾いている。そこに、3人が戻ってきて、4人で同時にもう一度、エンディングの一音を盛大に鳴らして終了。お笑いまで含めて、本当に上手なバンドでした。
 その後、深夜にパクアラマン王宮で、ガムランの演奏を聴きに行きました。ラジオの公開録音でもあります。シスワディさんのルバブ、トゥルストさんの太鼓など、素晴らしいメンバーの演奏で、時々、要所に大きなゴングが鳴るのですが、この時には必ずクノンという鐘も鳴り、この二つの楽器は、他の楽器とは、ずれて鳴るのです。ところが、この二つの楽器のずらし具合が絶妙で、まるでクノンのアタック音によって、ゴングの低音が鳴っているかのように、クノンとゴングが一つの楽器のように聞こえてくるのに、驚きました。