野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ハイドン大學やりましたーー

本日、ついに「ハイドン大學」。90分の講義、大阪梅田のグランフロント5階の島村楽器の店内で、1000万円のスタインウェイのピアノに囲まれてやりました。そして、店内にある1000万円のピアノで、ハイドン交響曲を抜粋で弾きながら、レクチャー。

まずは、「交響曲第16番の第1楽章」を、「日本センチュリー交響楽団」という歌詞をつけて歌うことで、2小節単位で曲が展開していくこと、途中でそれが、1小節単位になったり、といったことが、分かりやすく解説できたか、と思います。また、ぼくの声で、歌ったことで、最初は第2ヴァイオリン、裏声で歌っていたところが第1ヴァイオリン、低い声で歌っていたところが、ヴィオラ/チェロ/コントラバスといった具合に、説明できたり。そして、センチュリー響と就労支援プロジェクトとしている「The Work」で生まれた野村誠作曲「日本センチュリー交響楽団のテーマ」も紹介したりもできました。ちなみにハイドンの冒頭は、ベートーヴェンの有名なピアノソナタ「ヴァルトシュタイン」の冒頭と同じ和音進行ですね、とも補足。

続いて、「交響曲第100番の第1楽章」の二つの主題を中心に説明。一つ目の主題のフルートとオーボエの3重奏で登場する場面を解説するのに、アンデス(鍵盤リコーダー)での実演で紹介し、かわいらしい響きを説明。このメロディーのぼくの第一印象は、アジアの民謡。限りなくペンタトニックに近い。実際に、完全にペンタトニックにして、この曲を弾くと、もはやベトナムか中国かどこかの民謡にしか聞こえない。実際に、ト長調の中で階名で言えば「ドレミファソラ」の6音を使っていて、導音の「シ」を使っていないのが特色。そして、次の二つ目の主題は、逆に、ニ長調ですが、その音階の中で、ドシドシと、導音(シ)が出まくるのです。そして、この音楽を聞いた第一印象が、バグパイプの音楽だったので、バグパイプの音楽を聴いてみました。この1楽章は、二つの異なるキャラクターの民謡を並置して展開している曲のように聞こえるのです。と言っても、とても民謡には聞こえない、という方々のために、録音機材がないと、作曲家は民謡を譜面に書き起こし、あとで編曲する時には、原曲と全然違う響きにする例として、マイケル・パーソンズの編曲と、野村誠の編曲を紹介。さらに、架空の民謡を作曲家がでっちあげた例として、野村誠「ポーコン」の第3楽章、野村誠アコーディオン協奏曲」の第2楽章を紹介。

そして、「交響曲第37番の第2楽章」の3拍子が、各小節で、1+2だったり、2+1だったりするのを解説。1+2+2+1だと、メシアンが言うところの逆行不能なリズムにもなり得るわけで、3拍子も奥深い。これも「交響曲第100番の第3楽章」の3拍子では、常に2+1なので、同じメヌエットでも全然違うことを確認。

ここで、ひとまず、3月3日にセンチュリー響が演奏する3つの交響曲に触れることができて、ひとまずノルマ達成。一安心。残りの時間も楽しく進めましょう。「交響曲第100番の第2楽章」のメロディーと、キダタローカニ道楽の曲を比較。さらに、交響曲100番の楽器編成を、他の2曲と比較。さらに、他の楽章には使われていないクラリネットが、この2楽章だけに使われていることも含めて、このシンプルなメロディーで、いかに作曲家がオーケストラの色彩を変えていくことを味わっているのか、を説明。ラヴェルの「ボレロ」の元祖は、ここにあったのかもしれません。

そして、今日、最後に触れたのが「交響曲第16番の第2楽章」なのですが、これが、弦楽合奏なのですが、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが弱音機をつけたユニゾンで、しかも、チェロ独奏というのがあるのですが、ちっとも独奏っぽくなく、他のパートとオクターブユニゾンしているのです。この譜面は、見たところ、第2ヴァイオリンのつもりで書いていたパートが、作曲の途中で音域が足りなくなって、ヴィオラにやってもらうことにして、ヴィオラのつもりで書いていたところを、チェロ独奏にして、第1ヴァイオリンの予定だったところを、第1ヴァイオリン+第2ヴァイオリンでやったら、バランスが悪いからミュートをしてもらった、というアクシデントから生まれたのではないか、と見えてきます。とにかく、そうしたことの結果か、ヴィオラのパートが非常に重要なので、ヴィオラのパートを中心に、ヴィオラありとなしで、どのように違うかを説明しました。あとは、2小節目で「だるまさんが転んだ」的にフェルマータするところや、7−8小節目で同じフレーズをループするところを説明して、「だるまさんが転んだ」にちなんで、野村誠作曲のピアノと管弦楽のための「だるまさん作曲中」を少し紹介。

野村のヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン+打楽器)、アコーディオン協奏曲(アコーディオン+弦楽オーケストラ)、ピアノ協奏曲(ピアノ+2管編成オーケストラ)を、紹介することは、ハイドンの作品の編成、弦楽オーケストラ(16番の2楽章)、弦楽オーケストラ+木管(16番、37番)、金管や打楽器も加わった「軍隊」という編成の変化と、密かにパラレルになっていました。

無事、重責を果たせて、一安心です。それにしても、ハイドンという作曲家には、学ぶところが多く本当に勉強になりました。侮れません。「今までで聞いたどの講演よりも面白かった」と言って下さったお客さんもあり、嬉しい限りです。そして、センチュリー響の事務局の方々も、野村作品に色々関心を示して下さり、いずれ演奏会で取り上げたいとの声もあったことも、嬉しい反響でした。