野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン・オペラ*1第1幕

本当に、長い一日。充実した一日でした。休憩を含むものの、12時間労働です。

1)9:00−10:00 ウォームアップ

 22人のミュージシャンと、ヒュー+野村によるウォームアップ(9人のダンサーは、別室でジュールズとストレッチなどをしている)。ヴァイオリン2人、チェロ3人、コントラバス1人、フルート1人、クラリネット2人、ファゴット1人、トランペット1人、ギター3人、マリンバ1人、太鼓4人、ピアノ3人。

まず、ホエールトーン・スケール*1の説明をして、この音階に慣れるために、楽器で演奏。


ヒューが指揮をする。合図はたった3つ(1:ドローン*2、2:オスティナート*3、3:ソロ)。この組み合わせで、なかなか良い。

続いて、ぼくが時々やる2分で即興してもらって、タイトルを考えて、その後そのタイトルで再度30秒に凝縮してやる、というのを試みる。4つのタイトルが生まれた。つまり、

Wind in the trees (木々の中の風)
Smoky Tent (煙もくもくのテント)
A Stupid Man (ある阿呆な男)
Haunted Sleepy Frog Spawn (幽霊の宿る眠たい蛙の卵)

2)10:00−11:00 アカペラヴォイスの曲

ダンサーとミュージシャンが合流して、アカペラの音楽を2曲やりました。つまり、ロングトーンで伸ばすトーンクラスタ*4の響きの「どうやって実がなるの」と喋りのリズムを重ねていく「バナナケーキ・レシピ」。レシピは、新たに言葉を作ってもらった。「オーヴンに2日間入れる」というものもあり。

ここで、お茶休憩をはさんで、


3)11:15−13:15 踊りの音楽を作る/踊りを作る

再び、ダンサーとミュージシャンに分かれて、ダンサーはダンスを、ミュージシャンはダンスの音楽を作ります。まずは、ダンサーが「ニュー民謡」のダンスを作り、ミュージシャンは「エレクトロニック・バレエ」を作りました。「エレクトロニック・バレエ」は、ホエールトーン・スケールからの5音で、《C,D,E,A,B♭》という音階で作りました。さらに、ミュージシャンは、ダンサーの作った「ニュー民謡」の動きに合わせて、「ニュー民謡」のメロディーの素材を作りました。今度は、《C,D,F#,G#,A,B♭》という6音音階で。

4)14:15−14:40 全員で身体を動かす

ジュールズの提案で、ダンサーだけでなくミュージシャンにも、身体を動かしてもらおうと、ストレッチや簡単な動きの時間。

5)14:40−16:30 ダンサー+ミュージシャンでの練習

午前中に別々に作ったダンスと音楽を組み合わせる作業。「エレクトロニック・バレエ」の音楽に合わせて、ダンサーは振付を創作。「ニュー民謡」の振付に合わせて、午前中の素材を組み合わせて音楽を構成。

6)16:30−17:00 バナナケーキ・レシピを発展

ダンサーだけで「エレクトロニック・バレエ」の振付をもう少しやりたい、ということだったので、ミュージシャンの方は、午前中にやったアカペラの「バナナケーキ・レシピ」を、楽器も加えて発展させました。



7)19:00−19:15 野村とヒューのミニ演奏会

ちょっと気分転換に、野村が「福岡市美術館」の第5曲「泰西風俗図屏風」をピアノで演奏、ヒューは彼の歌をギターで弾き語りして、みんなに聴いてもらう。

8)19:15−20:45 歌づくり

まだ、やっていない「寒いのイヤ」、「バナナの木」、「体重減らそう」、「どすこい」という4つの歌を作ってもらいました。ただし、「寒いのイヤ」は、「寒いのイヤ」というフレーズだけは入れるという条件で。「バナナの木」は日本でやった時に十七絃でやっていたリズムだけは踏襲するという条件で。「体重減らそう」は、オリジナルの「体重減らそう」の部分だけを使うという条件で。「どすこい」は、必ず「どすこい」というフレーズを入れることという条件で。

31人は、どれか一つ好きなところに参加することにしたところ、「寒いのイヤ」は6人で、ギターによる弾き歌いで、「さむうぃーのうぃーやー」と歌うサビが耳に残る名曲。「バナナの木」に17人集まり、これは、レゲエのような陽気な曲で、コミカルでミュージカルのようなダンスもつく。「体重へらそう」はピアノとジャンベの2人で、これにヒューの鍵盤ハーモニカが加わり、ムーディーでジャジーな曲。「どすこい」は6人で、細くて長身の女性ダンサー二人が、相撲をとるダンスで、あまりにも相撲とかけ離れたルックスが素晴らしい。チェロ、ヴァイオリン、トランペット、ジャンベによる荘厳な音楽。

ということで、ものスゴイ充実した12時間でした。今日一日で、第1幕の曲のほとんど全部が再創造されました。明日の5時が、いよいよ第1幕の本番です。

*1:whaletone scaleは《C,D,E,F#,G#,B♭》というwholetone scale(全音音階)にAを足した《C,D,E,F#,G#,A,B♭》という7音音階で、野村誠とヒュー・ナンキヴェルのオリジナル音階。全音音階に一音加えただけなので、全音音階に似ているようなのだが、実は全然違うところが売り。全音音階は、全てが全音の幅であるため、オクターヴ内の異なる二音の音程は、長2度、長3度、増4度、増5度、短7度の5種類に限定されるが、ホエールトーンには、短2度、長2度、短3度、長3度、完全4度、増4度、完全5度、増5度、長6度、短7度、長7度の11種類全てが可能になる、などということは、考えずに、適当に思いつきで作った。ホエールトーンの7音から、任意の5音を選んで、様々なペンタトニックの曲を作るところが、ホエールトーン・オペラの特徴になっている

*2:ドローン=ロングトーンの持続音を意味する

*3:オスティナート=反復するリズムパターンの意味

*4:トーンクラスター=密集した音域の微分音が複雑な音の塊になっている